醸造アルコール

醸造アルコールとは、食用の目的で使用されるエタノールを指し、「醸造用アルコール」とも呼ばれます。主に、清酒（日本酒）をはじめとするアルコール飲料の製造に利用されています。

日本酒造りにおいては、量を増やす目的、あるいは味わいや香りを調整する目的で添加されます。アルコール度数を調整するためにも使用されます。日本国内で生産される日本酒全体の製造量の約77%に醸造アルコールが添加されているというデータがあります。

日本酒の種類によって添加目的は異なります。普通酒や三倍増醸清酒では、原料米の最大50%まで添加が可能で、これは主にコスト削減や増量を目的としています。一方、比較的高価な吟醸酒や本醸造酒といった特定の名称を持つ日本酒では、原料米の10%以下に添加が制限されており、これは主に日本酒の味わいをより軽快にしたり、香りを引き立てたりするためのものです。醸造アルコールの添加は品質が低い日本酒に行われるという誤解が見られますが、国内最大の日本酒品評会である全国新酒鑑評会では、出品された日本酒の約78%、特に高く評価された入賞酒に至っては約98%に醸造アルコールが使われているという事実があり、その品質への貢献が認められています。

かつて衛生管理が難しかった時代には、日本酒を劣化させる原因となる火落菌の繁殖を抑える効果も期待されていましたが、現代では加熱殺菌（火入れ）によってこの問題を解決できるため、この目的での添加は減少しています。

醸造アルコールを添加して造られた日本酒は、厳密には純粋な醸造酒ではなく、異なる種類の酒を混ぜ合わせて造られた混成酒に分類されます（ただし、リキュールとは異なります）。しかし、日本の酒税法においては、これらもまとめて「清酒」として扱われます。一方、アメリカ合衆国など国外では税法上の区分が異なり、アルコール添加の有無によって税率に大きな差が生じる場合があります。

日本酒以外にも、醸造アルコールは多様な用途に利用されています。カクテルの基材となるスピリッツやリキュールの製造に広く用いられています。また、アルコール度数を36度未満に調整したものは、焼酎の一種である焼酎甲類として販売されています。

醸造アルコールは、デンプンや糖分を含む植物性の原料を発酵させ、それを連続式蒸留機で繰り返し蒸留することで製造されます。主な原料としては、以下のようなものが挙げられます。

含糖質原料: サトウキビから砂糖を精製した後の廃糖蜜、精製糖蜜、甜菜糖蜜など
澱粉質原料: 米、サツマイモ、トウモロコシなど

かつては国内での蒸留が中心でしたが、近年は廃液処理の規制強化などを背景に、海外で植物由来原料から造られた「粗留アルコール」を輸入し、国内でさらに高純度に精製して使用することが一般的となっています。近年ではアルコール飲料の原料として、年間2億リットル以上の醸造用アルコールが海外から輸入されています。

食品製造（味噌や醤油など）に使用される工業用アルコール（エタノール）も、醸造アルコールと同様に、デンプン質や糖質を原料とした発酵を経て製造されるという点では共通しています。しかし、醸造アルコールが国税庁の管轄で酒税の対象となるのに対し、工業用アルコールは経済産業省の管轄で酒税がかからない点が大きく異なります。また、エチレンなどを化学的に合成して製造されたアルコールは、醸造アルコールとして使用することはできません。これは、合成アルコールが食品衛生法により食品添加物としても認められていないためです。工業用アルコールは、本来の目的外での飲用などを防ぐため、アルコール事業法に基づいて製造・販売・使用が厳しく管理されており、市場で流通する工業用アルコールや燃料用アルコールには、誤飲防止のために有毒なメタノールなどが添加されている場合があります（これを変性アルコールと呼びます）。

日本の「清酒の製法品質表示基準」という国の告示では、醸造アルコールは「でんぷん質物又は含糖質物を原料として発酵させて蒸留したアルコールをいうものとする」と明確に定義されています。

このように、醸造アルコールは単なる増量剤ではなく、日本酒をはじめとする多様なアルコール飲料の品質調整や製造効率向上に欠かせない存在であり、その用途は多岐にわたります。

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