野口建彦

野口建彦：19世紀市場経済と国際金本位制研究の先駆者

野口建彦（1941年-2014年）は、日本の経済史を専門とする経済学者であり、日本大学経済学部教授として長年研究と教育に携わりました。慶應義塾大学経済学部卒業後、同大学大学院経済学研究科博士課程を経て、日本大学経済学部教授の職に就きます。その間、東京大学教養学部や茨城大学などでも非常勤講師として活躍しました。

野口教授の研究は、経済史の中でも特に19世紀の市場経済に焦点を当てており、その特異な性格をグローバルな国際金本位制の確立という文脈で解き明かそうと試みました。単なる経済現象にとどまらず、経済人類学的なアプローチを取り入れることで、非市場経済との比較研究を行い、独自の視点から歴史を分析しました。

彼の研究の中心は、19世紀における自己調整的市場経済と、それを支えた国際金本位制の役割解明にありました。具体的には、19世紀に開催された国際通貨会議や、1870年代以降の金銀比価の変動を詳細に分析することで、金本位制（メタリズム）に基づく国際通貨体制が市場経済の形成に与えた影響を明らかにしようとしました。このアプローチは、従来の経済史研究には見られない独自性を持っていました。

野口教授の学術的貢献は、数々の論文や著書、そして翻訳によって示されています。主な著書・論文としては、「二つの帝国主義とオスマン帝国の解体」、「カール・ポラニー再考」、「中央銀行と国民経済の危機」、「19世紀国際通貨会議の歴史的意識」などが挙げられます。これらは、いずれも19世紀の経済構造や国際関係を多角的に考察した重要な研究成果です。

さらに、彼はカール・ポラニーの『大転換――市場社会の形成と崩壊』を始め、バーナード・センメル、T・C・オーウェン、E・J・ホブズボーム、C・W・デ キーウィトといった、世界的に著名な経済史研究者の著作を多数翻訳しました。これらの翻訳活動は、日本の経済史研究に多大な貢献を果たすと同時に、より多くの研究者や学生が世界的な知見に触れる機会を提供したと言えます。

学問への貢献に加え、野口教授はテニスを趣味とし、ロック歌手氷室京介のファンであったという一面も持っていました。ケンブリッジ大学ペンブルック・カレッジとの交流があり、国際的な視野を持つ研究者として、多様な文化に触れていました。

野口建彦の研究は、19世紀の経済史を深く理解する上で欠かせないものとなっています。彼の経済人類学的な視点と、国際金本位制への鋭い洞察は、現代の経済問題を考える上でも重要な示唆を与えてくれます。彼の研究業績は、これからも多くの研究者や学生に影響を与え続けることでしょう。

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