野尻武敏

野尻武敏は、日本の著名な経済学者として広く知られています。1924年10月16日に大分県で生を受け、2018年10月29日にその生涯を終えるまで、長年にわたり経済学の研究と教育に情熱を注ぎました。彼の専門分野は、経済政策論と比較経済体制論であり、この領域で重要な貢献をしました。

経歴

1949年、野尻武敏氏は神戸経済大学（現在の神戸大学）を卒業しました。在学中は、著名な経済学者である五百籏頭眞治郎氏に師事し、経済学の基礎と研究手法を深く学びました。

大学卒業後、1950年に母校である神戸大学経済学部に助手として採用され、研究者の道を歩み始めます。その後、着実にキャリアを重ね、1952年には講師、1954年には助教授へと昇任しました。そして1964年、教授に昇格し、経済学部の中心的な役割を担うことになります。この間、研究活動も精力的に行い、1966年には神戸大学に学位論文『一般経済政策論の動向と基本問題』を提出し、経済学博士号を取得しました。

1988年に神戸大学を定年退官した後、同大学より名誉教授の称号が贈られました。退官後も研究教育への意欲は衰えず、大阪学院大学経済学部教授として再び教壇に立ちました。大阪学院大学でも長年にわたり学生の指導にあたり、2002年に退任する際には、同大学からも名誉教授の称号を授与されました。

学術研究の場にとどまらず、社会活動にも積極的に参加しました。1996年から1998年には、経済社会学会の会長を務め、学会の発展に貢献しました。また、阪神・淡路大震災からの復興支援に関わるひょうご震災記念21世紀研究機構の顧問を務めたほか、生活協同組合コープこうべが運営する協同学苑の学苑長として、地域社会の発展や市民教育にも尽力しました。

研究内容と業績

野尻教授の学問的貢献は、経済政策論と比較経済体制論に集中しています。単に理論を追求するだけでなく、日本社会が直面する現実的な諸問題に対しても深い洞察を示しました。特に、持続可能な社会システムの構築や、急速に進展する高齢化社会への対応といった現代的なテーマにも関心を寄せ、その解決に向けた提言を行いました。

その学術的な功績は国内外で認められ、オーストリア政府からは学芸功労第一級十字章を受勲しています。

著作

野尻武敏氏は、自身の研究成果や社会へのメッセージを多数の著作として発表しました。主要な著書、共著、編著、翻訳は以下の通りです。

主要著書

『一般経済政策論 経済政策論の動向と基本問題』（1965年）
『経済政策原理』（1973年）
『人間と社会』（1973年）
『経済体制の接近? 体制収斂論争をめぐって』（1975年）
『日本経済論 高度経済成長とその転換』（1975年）
『選択の時代 多元化社会と経済体制』（1980年）
『人間社会の基礎』（1983年）
『長寿社会を生きる 美しく老いるために』（1991年）
『21世紀と生活協同組合』（1997年）
『第三の道 経済社会体制の方位』（1997年）
『福祉国家から福祉社会へ』（1998年）
『転換期の政治経済倫理序説 経済社会と自然法』（2006年）
『経済社会思想史の地平』（2011年）
『蝉しぐれ 大正生まれの一つの軌跡』（2012年）

共著・編著・翻訳他

『現代の経済体制思想』編著（1976年）
J.コスタ『現代の社会主義 理論と現実』監訳（1978年）
テオドール・ピュッツ『現代経済政策論の基礎』共訳（1983年）
『転換期の経済政策』共編著（1984年）
エドゥアルト・ハイマン『近代の運命』共訳（1987年）
『ひとつのドラマの終り 共産主義の倒壊』共著（1991年）
『現代社会とボランティア』共著（2001年）
『この国の明日を憂う 「本当の危機」とは何を指すか』共著（2003年）
『いのちを問う その重さと大切さ』共著（2005年）
賀川豊彦『友愛の政治経済学』監修（2009年）

これらの広範な著作活動は、野尻武敏氏が経済学の専門領域だけでなく、社会全般の諸問題に対しても深い関心を持ち、その解決に向けて積極的に発言し続けたことを示しています。彼の研究と思想は、多くの後進の研究者や社会活動家に影響を与えました。

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