野性時代新人文学賞

野性時代新人文学賞

野性時代新人文学賞は、日本の文壇においてかつて重要な役割を果たした新人文学賞の一つです。1974年に設立され、1986年までのおよそ13年間、計15回にわたって才能ある新人作家の発掘を目的として開催されました。

設立背景と歴史

この賞は、株式会社角川書店の創立30周年という記念すべき年を迎えたことと、同社が新たに文芸界に送り出した雑誌『野性時代』の創刊を祝して設けられました。同時期には、小説分野を対象とした角川小説賞や、ノンフィクション分野の日本ノンフィクション賞も創設されており、これらは当時の角川書店が新人作家育成に注力していた姿勢を示すものです。

設立当初の選考形式は、『野性時代』誌上に掲載された新人作家の作品の中から受賞作を選出するというものでした。しかし、より多くの書き手に機会を提供するため、1983年度からは広く一般から作品を募集する公募形式へと変更されました。この形式変更により、さらに多様なバックグラウンドを持つ作家がデビューする可能性が開かれました。

主な受賞作家と作品

野性時代新人文学賞は、その比較的短い歴史の中で、日本文学界において後に重要な位置を占めることとなる多くの作家を輩出しました。特筆すべき受賞作としては、第2回（1975年）に片岡義男が受賞した「スローなブギにしてくれ」が挙げられます。この作品は、当時の若者文化を鮮やかに描き出し、広く読まれました。

また、第3回（1976年）受賞作である池田満寿夫の「エーゲ海に捧ぐ」は、同年に芥川賞も受賞するという快挙を達成し、新人文学賞からの直木賞・芥川賞受賞という一つのルートを確立しました。そのほか、第13回（1986年）には王出富須雄名義（後の天童荒太）の「白の家族」が受賞するなど、個性豊かな作家たちがこの賞を通じてデビューを果たしました。すべての回で受賞作が出たわけではなく、第6回、第7回、第9回、第11回は「受賞作なし」となるなど、厳正な選考が行われていたことがうかがえます。

選考委員

歴代の選考委員には、その時代の日本文学界を代表する著名な作家や評論家たちが名を連ねました。創設から第5回までは、吉行淳之介、開高健、尾崎秀樹といった重鎮が選考に携わりました。第6回から第9回にかけては、遠藤周作、北杜夫、尾崎秀樹、三浦朱門が委員を務めました。さらに、第10回以降は中上健次、村上龍、三田誠広、高橋三千綱、宮本輝といった、当時すでに第一線で活躍していた作家たちが選考に参加しました。選考委員の顔ぶれは時代と共に変化し、第13回では宮本輝が委員を退任するなど、常に新鮮な視点での選考が試みられていたと言えるでしょう。

賞の終焉とその後

1986年の第15回をもって、野性時代新人文学賞はその歴史に幕を閉じました。しかし、新人作家を発掘・育成するという角川書店の取り組みは終わることなく、雑誌『野性時代』の名を冠した新たな文学賞として、野性時代フロンティア文学賞などが創設され、その精神は引き継がれていきました。

野性時代新人文学賞は、わずか15回の開催期間ではありましたが、その間に多くの才能を世に送り出し、特に池田満寿夫の芥川賞受賞や片岡義男のベストセラー作品を生み出すなど、日本現代文学史において確かにその足跡を残した新人文学賞です。

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