野村喜和夫

野村喜和夫：詩、批評、そして俳優の多彩な顔

野村喜和夫氏は、1951年埼玉県入間市生まれの詩人、文芸批評家、そして俳優である。早稲田大学第一文学部卒業後、明治大学大学院で仏文学を専攻。50歳までフランス語教師として教壇に立つ傍ら、詩作活動に没頭した。

詩作においては、1993年の処女詩集『特性のない陽のもとに』で歴程新鋭賞を受賞して以降、数々の賞に輝いている。高見順賞、現代詩花椿賞、鮎川信夫賞、藤村記念歴程賞など、現代詩の主要な賞を網羅する快挙を成し遂げている。2020年には『薄明のサウダージ』で現代詩人賞を受賞するなど、その高い評価は揺るぎないものとなっている。

野村氏の詩作は、多様なテーマと実験的な表現方法で知られる。初期作品では、日常の風景や個人的な経験を繊細な言葉で表現する一方、後期の作品では、より抽象的で概念的な表現に挑戦するなど、常に進化を続ける姿勢を見せている。

詩集は、『川萎え』（1987）から『パッサル、パッサル』（2024）まで、実に多数にのぼる。その中には長編詩『平安ステークス』のような意欲的な作品も含まれており、その創作活動の旺盛さを示している。また、英訳詩集『Spectacle & Pigsty』は、アメリカでBest Translated Book Award in Poetryを受賞するなど、国際的な評価も高い。電子詩集『なまこサバイバル』など、新しい表現方法にも積極的に取り組んでいる点が注目に値する。

野村氏は、詩人としての活動にとどまらず、文芸批評家としても重要な役割を果たしている。特に、フランス現代思想、とりわけジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの文学理論を日本の現代詩批評に積極的に取り入れ、独自の批評方法を確立している。その精緻な批評は、現代詩の理解を深める上で大きな貢献を果たしている。評論、エッセイも多数発表しており、『ランボー・横断する詩学』、『現代詩作マニュアル 詩の森に踏み込むために』など、現代詩の創作や研究に役立つ書籍も多い。

さらに、俳優としての顔も持つ野村氏は、映画『浮雲』（2008年）、『絵のない夢』（2011年）などに出演し、その幅広い才能を発揮している。

2011年には、妻であるフラメンコダンサーの野村眞里子氏とともに、現代詩とダンスの振興発展を目指す一般財団法人エルスールを設立し、「エルスール財団新人賞」を運営するなど、文化活動にも積極的に貢献している。

野村喜和夫氏の活動は、詩作、批評、俳優活動にとどまらず、多様な分野に広がりを見せ、現代の文化シーンに大きな影響を与えている。その多彩な才能と旺盛な創作活動は、これからも現代詩壇を牽引し続けるものと期待される。

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