野生の思考

『野生の思考』（仏: La Pensée sauvage）は、フランスの人類学者クロード・レヴィ＝ストロースによって1962年に発表された著作です。この本は、彼の初期の著作『親族の基本構造』と後期の『神話論理』の間に位置づけられ、同年に発表された『今日のトーテミスム』とは密接な関係にあります。表紙には、思考（pensée）とパンジー（pensée）の言葉遊びから、野生のパンジーである三色スミレが描かれています。

本書は、出版当初から人類学研究だけでなく、1960年代の構造主義思想の発展に大きな影響を与えました。レヴィ＝ストロースは、自然環境における具体的な事物を記号として扱う思考、すなわち「野生の思考」を主題とし、これを文明社会で発達した科学的思考と対比させながら議論を展開しています。

「野生の思考」は、手元にある素材を使って必要な物を作る「ブリコラージュ」に例えられます。これは、目の前の事象を考察する際に、その事象と別の事象との間にある関係に着目し、類似した関係を持つ他の事象を連想しながら再構成する思考様式です。このプロセスを通じて、事象に新たな意味を与え、新しい「構造」を作り出すことができます。この思考様式は、理論と仮説を通じて思考する科学的思考と本質的には同じです。両者の違いは、科学的思考が「概念」を用いるのに対し、野生の思考が「記号」を用いる点にあります。

例えば、オーストラリアの部族を例にとると、コウモリをトーテムとする部族とキバシリをトーテムとする部族が存在します。これらのトーテム動物と部族の間には直接的な関係はありませんが、コウモリが狩りをする動物であり、キバシリが盗む動物であるという特徴に着目することで、部族間の社会的な関係と関連付けられます。このように、野生の思考は、比喩に基づく類推の論理によって成り立っています。

この著作は、単に文化人類学の領域にとどまらず、哲学や社会学など、幅広い分野に影響を与えました。レヴィ＝ストロースは、人間の思考の根底にある普遍的な構造を解き明かそうと試み、その思考は現代においても多くの示唆を与えてくれます。

刊行書誌
クロード・レヴィ＝ストロース 『野生の思考』大橋保夫訳、みすず書房、1976年

作品論
出口顯 『国際養子たちの彷徨うアイデンティティ　レヴィ＝ストロース『野生の思考』を読み直す』現代書館：いま読む！名著、2015年

関連項目
悲しき熱帯
中沢新一 - 文化人類学者。明治大学「野生の科学研究所」所長。NHK「100分de名著」にて「野生の思考」の解説を担当。

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