ブリコラージュ

ブリコラージュとは何か

ブリコラージュ（Bricolage）は、フランス語の動詞「bricoler」（繕う、ごまかす）に由来し、「寄せ集めて自分で作る」「ものを自分で修繕する」といった意味を持つ言葉です。日本語では「器用仕事」とも訳されます。この言葉は、既存のものを活用し、試行錯誤を繰り返しながら新しいものを生み出す行為を指し、計画や設計図に基づいたものづくりとは対照的なアプローチです。

ブリコラージュを行う人を「ブリコルール」（bricoleur）と呼びます。ブリコルールは、手元にある様々な材料や情報を組み合わせ、創造性と機智を駆使して新たな価値を生み出します。その活動範囲は非常に広く、端切れから日用品を作り出す人々、情報システムを構築する技術者、そして物語の中で機転を利かせて危機を脱する登場人物まで、様々な人がブリコルールとして捉えられます。

文化人類学におけるブリコラージュ

フランスの文化人類学者クロード・レヴィ＝ストロースは、著書『野生の思考』の中で、世界各地で見られる、端切れや余り物を利用して生活に必要な道具を作る行為を「ブリコラージュ」と名付けました。彼は、このブリコラージュを、人類が古くから持っていた知のあり方である「野生の思考」の象徴と捉えました。また、近代以降のエンジニアリングの思考である「栽培された思考」と対比させ、ブリコラージュが普遍的な知のあり方であることを示唆しました。

レヴィ＝ストロースはまた、世界各地の呪術や神話における思考パターンも「ブリコラージュ」と捉えました。神話は、様々な神々や英雄のエピソードが寄せ集められたものであり、必ずしも一貫性を持っていません。これは、先行する民族や隣接する民族の神話を引用したり、各地方の神話をまとめたりする過程で、神話体系が寄せ集めの状態（ブリコラージュされた状態）になったためだと考えられます。

ジャック・デリダによるブリコラージュの拡張

哲学者ジャック・デリダは、レヴィ＝ストロースのブリコラージュの概念を、人間のあらゆる言説（ディスクール）へと拡張しました。デリダによれば、すべての言説は、既存の概念やテクストを借りて構成されるため、本質的にブリコラージュであると言えます。彼は、無から何かを作り出す「エンジニア」的な発想を批判し、あらゆる創造行為は、既存の要素を組み合わせるブリコラージュであると主張しました。

カルチュラル・スタディーズにおけるブリコラージュ

カルチュラル・スタディーズでは、ブリコラージュは、人々が既存の文化的区分を超えて、新しいアイデンティティや共同体意識を形成する行為として捉えられます。特にサブカルチャーにおいて、ブリコラージュは顕著に見られます。例えば、パンク・ムーブメントでは、安全ピンやチェーンなどの日常的なものが、反抗的な意味を帯びたアクセサリーとして用いられています。これは、既存の文化的な意味を転覆させ、新たな意味を生み出すブリコラージュの一例と言えるでしょう。

視覚芸術・音楽におけるブリコラージュ

美術や工芸においては、ブリコラージュは、その場にある様々な素材を組み合わせて作品を構成する手法として用いられます。ジャンク・アート、コラージュ、アッサンブラージュなどがその代表例です。20世紀前半のクルト・シュヴィッタースの「メルツ芸術」も、ブリコラージュの典型的な例として挙げられます。

音楽においても、ブリコラージュは広く用いられています。スプーン、空き缶、葉っぱ、紙、工具、厨房用具などが楽器として使用されたり、楽器の材料として再利用されたりしています。また、既存の音楽からサンプリングする行為も、ブリコラージュの一種と言えるでしょう。

科学、教育、情報技術におけるブリコラージュ

生物学では、フランソワ・ジャコブが、生物の進化をブリコラージュとして捉えました。進化は、あらかじめ作られた設計図に基づいて行われるのではなく、既存のものを利用し、用途を変更・追加することで起こると考えられます。

教育学においては、シーモア・パパートが、問題解決の二つの方法として、分析的な手法とブリコラージュ的な手法を対比させました。パパートは、挑戦、試行、遊びを通した問題解決と学習の方法をブリコラージュと表現しました。

情報システム学においては、クラウディオ・チボラが、戦略情報システム（SIS）が競争優位性を維持するための方法として、ブリコラージュを提唱しました。彼は、システムの微調整を評価し、SISがトップダウンで実装されるのではなく、ボトムアップで改善されていくことを認めることで、他社には真似できない独自のシステムを構築できると主張しました。

インターネット研究者のシェリー・タークルは、プログラミングにおける「ブリコルール・スタイル」を、従来の「プランナー・アプローチ」と対比させました。彼女は、ブリコラージュによるコーディングは、準備段階で消耗することなく、ステップバイステップでの成長と再評価を繰り返すことで、より効果的なプログラム開発を可能にすると述べました。

このように、ブリコラージュは、文化、芸術、科学、教育、情報技術など、幅広い分野において、創造的な問題解決や新しい価値創造のための重要な概念として用いられています。

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