野生司香雪

野生司香雪の生涯と業績

野生司香雪（のーす こうせつ）は、1885年に香川県香川郡檀紙村（現在の高松市）で生まれました。彼の本名は述太（のぶた）で、僧侶の家庭に育ちました。まずは檀紙尋常小学校、次いで堂山高等小学校を経て、香川県工芸学校に入学。卒業後は東京美術学校に進み、日本画を学びます。

香雪は20歳の時、東京美術学校日本画科の新館に入学し、そこでイギリスから帰国した著名な画家、下村観山に学びました。彼の才能は早くも1907年に東京勧業博覧会で認められ、さらに1908年には日本画科を卒業しました。卒業後はデザインの仕事をしつつ、結婚を経て様々な美術団体に参加します。

インドへの旅とアジャンター壁画の模写

1917年、香雪は日本の仏教美術を研究するためインドへ渡ります。彼は元通信次官・前島密の支援を受け、コルカタやサールナートなどの仏跡を訪れ、さらにアジャンターの壁画の模写にも参加することとなります。この模写の経験が彼の仏教美術に対する情熱をより一層かき立てることとなりました。帰国後には「アジャンタ壁画模写展」を開催し、彼の名声は次第に高まっていきます。

サールナート壁画の制作

1931年、香雪はサールナートの寺院に依頼され、仏教の歴史を描く大規模な壁画に取り組みます。不運にも彼が選ばれた理由は、友人の桐谷洗鱗が病気で急逝したからでした。その後、彼はインドでの厳しい環境の中、5年間にわたり壁画を完成させます。この作品は彼の名を全国に知らしめることとなり、逆境を乗り越えた香雪の姿が多くの支持を集めました。

善光寺雲上殿の壁画

1940年には善光寺の新築中の納骨堂・雲上殿の壁画を依頼され、香雪は再び大きなプロジェクトに関わります。納骨堂の工事が完了したものの、第二次世界大戦の影響で物資が不足し、彼は壁画の制作に数年を要しました。しかし、最終的には完成し、善光寺の伝説を描いた壁画は多くの人々に感動を与えました。

晩年と受賞

香雪は1952年に長野県の渋温泉に移住し、ここでの安住の地としました。故郷の壁画制作などを続けながら、仏教美術展にも積極的に参加し、1973年には「仏教美術賞」を受賞しました。彼はこの年、88歳で息を引き取り、長年にわたる画家としての活動に終止符を打ちました。

香雪の作品や彼に関する書籍も多く出版されており、彼の業績は日本の仏教美術の発展に大きく寄与しました。彼の抱いていた仏教美術への情熱は、今なお多くのアーティストや研究者に影響を与え続けています。彼の遺した作品は、仏教の精神を後世に伝える重要な文化遺産と言えるでしょう。

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