金匱要略

金匱要略（きんきようりゃく）

『金匱要略』は、中国の伝統医学における重要な古典の一つであり、『傷寒論』と並んで、東洋医学、特に漢方医学における薬物療法の基礎をなす文献として位置づけられています。『傷寒論』が主に急性熱性疾患である傷寒の病状変化とそれに対する治療原則を扱っているのに対し、『金匱要略』はより広範な病類を取り上げ、それぞれの病理、診断、治療方法を詳細に解説しています。

成立の経緯

『金匱要略』は、正式には『金匱玉函要略方論（きんきぎょくかんようりゃくほうろん）』と呼ばれ、後漢時代の医学者、張仲景（ちょうちゅうけい）によって著された『傷寒雑病論（しょうかんざつびょうろん）』の一部を起源とします。『傷寒雑病論』は、長年の戦乱や、一部医師による秘伝化により散逸してしまいました。

散逸後、『傷寒雑病論』の内、『傷寒』に関する部分のみが『傷寒論』として流布し、その他の様々な疾患を扱った『雑病』部は所在不明となりました。しかし、孫思邈（そんしばく）の『千金要方（せんきんようほう）』などの引用から、『雑病』部の大まかな構成は推測されていました。

北宋時代、王洙（おうしゅ）によって宮中から『金匱玉函要略方』という書籍が発見されました。調査の結果、この書籍は『傷寒雑病論』のダイジェスト版であり、その後半部分が失われたと思われていた『雑病』部に相当することが判明しました。そこで、『傷寒論』の校訂を担当した林億（りんおく）に、『雑病』部の校訂が命じられました。

林億は、『傷寒論』と内容が重複しない部分（雑病、方剤、婦人病）を中心に校訂を行い、他の医学書からの引用などを参考に欠落部分を補い、項目の配列を整理して、より分かりやすい構成に再編しました。こうして完成したのが、現在の『金匱要略（方論）』です。

構成

『金匱要略』は全25巻から構成され、各巻は病気の処方ごとに分類されています。王億（おうおく）によって、方剤に関しても同様の原則で順序が改められました。最初の篇である「臓腑経絡先後病」では、人体を有機的な統一されたものとして捉え、邪気・正気・臓器間の関係を通じて、病気の発生メカニズムや治療原則（経絡・脈法を重視するなど）を解説しています。

続く各巻では、内科疾患、外科疾患、分類が困難な疾患、方剤、婦人病、救急処置、食物禁忌など、幅広い領域を網羅しています。各疾患に対する具体的な症状、診断方法、および適切な処方が詳細に記述されており、臨床医にとって非常に有用な情報源となっています。

一説には、『傷寒論』を編纂した西晋の王叔和（おうしゅくわ）の時代には、既に『傷寒論』から独立した書籍として扱われていたとも言われています。

『金匱要略』は、漢方医学を学ぶ者にとって必読の書であり、現代においても、その内容は臨床において重要な指針となっています。

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