金属類回収令

金属類回収令

金属類回収令（きんぞくるいかいしゅうれい）は、1941年に日本政府が公布した勅令です。この法律は、日中戦争から太平洋戦争にかけての物資不足を補うため、特に金属資源の回収を目的として制定されました。特に、武器製造に必要な金属が不足していたため、政府は官民から金属類の回収を行うことを決定しました。

法律の背景と施行

この勅令は、もともと1941年（昭和16年）8月30日に公布され、1943年（昭和18年）に全面改正が行われました。また、1945年にはアルミニウムを回収対象として追加する改正も行われました。法律の施行は日本本土では1941年9月1日から、朝鮮、台湾、南洋群島では同年10月1日から開始されました。

翌年の1942年5月9日には金属回収令に基づき、強制譲渡命令の公布も行われました。この法律の下、金属類は家庭や企業から無償もしくは少額の補償金で回収されることとなり、実態は半強制的なものでした。特に、鉄、銅、青銅製品が優先的に収集され、家庭の日用品や集会などで使われる金属も対象になりました。

具体的な回収内容

回収対象は、マンホールの蓋や鉄柵、銅像、さらには家庭用の鍋や釜、玩具、火鉢にまで及びました。しかし、庶民が供出できる金属製品は限られており、鍋や日用品などわずかなもので、戦局のためには到底満たされるものではありませんでした。そのため、竹筋コンクリートなど新たな戦時設計による節約も実施されました。

戦争終盤には金属不足がさらに深刻化し、木材を改良して代用品を作るなどの試みも始まりました。特に海軍の関係者は、回収された金属製品の品質に問題があったと指摘しています。

企業への影響

企業に対しては、未使用の設備が金属資源として供出するよう求められました。例えば、東洋レーヨンでは設備の供出が経営の厳しさにつながり、その後、空き工場で魚雷の生産を開始する事例も見られました。こうした影響は、民間の生産活動に深刻な影響を及ぼしました。

地域の反応と影響

山形県では、金属回収に関する指導要綱が出され、一般家庭からはほぼ全ての金属が供出されてしまったと言われています。特に、山形での農作物の凶作により、家庭からの金属供出は厳しい負担となったと考えられています。また、学校や地域にある偉人の銅像さえも供出されましたが、仙台城の伊達政宗の騎馬像のように、一部は供出された後に放置された事例もあります。

宗教界の反抗

寺院においても鐘や仏像が回収対象とされましたが、歴史的・美術的価値の高いものについては除外される場合もありました。実際、国宝級の仏教美術に対して宗教界からの反発も見られました。多くの寺院が供出に応じたものの、明確に重みを持つ物は政治的力を背景に回収を免れた事例が見られるなど、複雑な情勢がありました。

戦争後の状況

1945年の終戦後、金属類回収令は時代とともに忘れ去られ、戦時法令の整理の一環として廃止されました。回収された銅像の一部は戦後に復元されましたが、軍人像は復元されないことが多くなりました。一般の銅像に代わって、女性の裸体像の設置が増え、新たな文化の表現となっています。

海外においても、戦争中に多くの国が金属資源の回収を試みましたが、日本のように銅像を供出することは少なく、他の国々では廃品回収が主流でした。また、アメリカでは古紙回収が行われ、戦争物資の確保に努めました。

結論

金属類回収令は、日本の戦時体制において極めて重要な役割を果たしました。物資不足と物資回収の複雑な問題は、戦争という状況の中で模索された解決策であり、今なおその影響は残されています。

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