金川千尋

金川 千尋

金川 千尋（かながわ ちひろ、1926年3月15日 - 2023年1月1日）は、激動の時代に日本の化学産業を牽引した傑出した経営者です。信越化学工業株式会社において、社長および会長の重責を担い、特に同社グループの米国事業を飛躍的に発展させ、世界的な企業へと押し上げる原動力となりました。

経歴とキャリア形成

金川氏は、日本統治時代の朝鮮・大邱に生を受け、その後東京都で育ちました。東京帝国大学法学部政治学科を1950年に卒業すると、ただちに極東物産（現在の三井物産）に入社。商社マンとしてキャリアをスタートさせました。しかし、彼の経営者としての本領が発揮されるのは、1962年2月に信越化学工業に転じてからのことです。同社では順調に昇進を重ね、1975年1月には取締役に就任。その後、常務、専務を経て、1983年8月には副社長に昇任しました。そして、1990年8月、遂に代表取締役社長に就任し、2010年6月からは会長として、経営の第一線に立ち続けました。

シンテックを世界一へ

金川氏の最大の功績として特筆されるのが、信越化学が米国で展開していた塩ビ事業、シンテック社の経営手腕です。取締役就任の翌年、彼は当時米国のロビンテック社との合弁事業であったシンテックについて、合弁相手の持ち株を買い取り、100%子会社化することを提案しました。当時の社長、小田切新太郎氏は取締役会で反対論が渦巻く中、金川氏の提案を支持し、買収を決断。この英断により、シンテックの経営を託された金川氏は、卓越した経営戦略と実行力をもって同社を育て上げ、世界有数の塩化ビニル樹脂メーカーへと変貌させました。シンテックは信越化学グループの屋台骨を支える超優良企業となり、長期にわたり安定した利益をもたらす源泉となりました。

独自の経営哲学

金川氏は、経営の本質を企業価値の最大化に置きました。それは短期的な株主還元のみに終始するのではなく、利益の絶対額を着実に増やし続け、長期にわたり安定した成長を追求することに他ならない、との揺るぎない信念を持っていました。最も明確かつ重要な経営指標は、毎年必ず当期純利益を増加させることにある、と考えていたのです。

事業展開においては、コマーシャルリスクが高くても、カントリーリスクが比較的低い国で勝負することの重要性を説きました。また、製品には寿命があるように事業にも寿命があるとしつつも、需要があり利益が出ている限りは、どんなに古く見えようとも事業は継続すべきだ、との現実的な事業評価観を持っていました。

経営者に求められる資質については、「執行能力」「決断力」「判断力」「先見性」といった実務能力に加え、「誠実さと温かさ」という人間的な側面の重要性を強調しました。

晩年と栄誉

金川氏は、1992年11月にはその経営手腕と産業への貢献が認められ、藍綬褒章を受章しています。長年にわたり信越化学工業を率い、同社の発展に尽力しましたが、2023年1月1日、肺炎のため96歳で逝去しました。

著書

自身の経営哲学や経験をまとめた著書を複数出版しており、多くの経営者やビジネスパーソンに影響を与えています。

『社長が戦わなければ、会社は変わらない:不況を言い訳にしない実践経営学』（東洋経済新報社、2002年）
『毎日が自分との戦い : 私の実践経営論』（日本経済新聞出版社、2007年）
* 『常在戦場 : 金川千尋100の実践録』（宝島社、2018年）

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