金沢亭

金沢亭：大阪ミナミの寄席、その興亡と時代背景

金沢亭は、明治時代から太平洋戦争末期にかけて大阪市ミナミ法善寺南側に栄えた寄席です。戦後、吉本興業傘下で「南地花月」と改称されました。

その歴史は、2代目桂文枝襲名問題に深く関わっています。襲名問題をきっかけに、落語家の一門が分裂。文枝の名跡を継いだ桂文三は「桂派」を結成し、金沢亭を拠点に活動を開始しました。当時、浪花落語界の有力な定席だった紅梅亭と激しい人気を競い合ったのです。

大正時代のはじめ頃、吉本興業の前身である吉本興行部（吉本泰三・せい夫妻創業）が金沢亭を買収しました。その後、1915年には「南地花月」と改称され、落語に加え、漫才や奇術など、より多様な演目を上演するようになりました。これにより、より幅広い観客層を取り込み、ミナミのエンターテインメントの中心地として賑わいをみせました。

しかし、太平洋戦争の激化により、1944年、建物疎開の指定を受け、金沢亭は閉鎖を余儀なくされました。長きに渡り大阪の芸能文化を支えてきた寄席の歴史に幕が下りたのです。

興味深いことに、1887年発行の『札幌繁栄図録』には、1892年頃の札幌市に同名の寄席が存在したという記述があります。大阪の金沢亭とは全く別の施設ですが、同じ名前の寄席が、時代と場所を超えて存在していたという事実は注目に値します。

近年では、2017年度下期に放送されたNHK連続テレビ小説『わろてんか』で、金沢亭をモデルにした「南地風鳥亭」が登場しました。ドラマでは、風鳥亭の開設から、戦争による建物疎開、そして閉鎖に至るまでの過程が丁寧に描かれ、多くの視聴者に当時の様子や寄席の賑わい、そして戦争の影を想起させました。

金沢亭は、単なる寄席ではなく、時代の変遷や芸能界の勢力争い、そして戦争という大きな出来事によってその歴史が刻まれた場所でした。その興亡は、日本の近代史、特に大阪の芸能史を理解する上で重要な一端を担っていると言えるでしょう。

なお、金沢亭の屋号は旧字で「金澤亭」と表記されることもあります。また、吉本興業と深く関わり、後の「花月」シリーズにつながる重要な存在でもありました。

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