紅梅亭

大阪ミナミ、法善寺北側に明治から大正時代にかけて存在した寄席「紅梅亭」。その歴史は、華やかさとともに、上方落語界の興亡を象徴する出来事の数々と深く関わっています。

もともとは「今嘉の席」という名前で営業していました。初代桂文枝の死をきっかけとした複雑な2代目襲名問題。この騒動に巻き込まれた桂文都は、「2代目月亭文都」を名乗り、笑福亭一門や初代桂文團治一門らと「浪花三友派」を結成します。そして、この浪花三友派が定席として選んだのが「今嘉の席」だったのです。

1894年、資産家である原田ムメ氏によって買収されると、東京の寄席「白梅亭」に対抗する形で「紅梅亭」と改名されました。この改名は、紅梅亭の新たな歴史の始まりを告げるものだったと言えるでしょう。

しかし、紅梅亭の隆盛は長くは続きませんでした。法善寺南側にあった「金沢亭」の人気に押される形で、1918年には吉本興業の創始者である吉本泰三・せい夫妻によって買収され、「西花月亭」と改称されます。その後、西花月亭は閉館を迎えることとなります。

6代目笑亭松鶴の証言によると、紅梅亭の席亭だった原田氏は、2代目林家染丸、2代目桂圓枝、初代橘家蔵之助、3代目三遊亭圓馬といった当時の落語界の面々を、連日南地のお茶屋に連れ出し、莫大な金を浪費させたと言われています。この豪遊が、結果的に吉本興業による買収、そして戦後の上方落語の衰退の一因になったという見方もあります。

紅梅亭の賑やかだった時代は、多くの落語家たちが活躍し、観客を魅了した時代でもありました。しかし、その繁栄の裏には、さまざまな人間関係や経済的な問題が潜んでいたことが分かります。

現在、よみうりテレビ（近畿ローカル）で放送されている演芸バラエティ番組「平成紅梅亭」は、この歴史ある寄席「紅梅亭」にその名を由来しています。番組セットも当時の紅梅亭の雰囲気を再現しており、往時を偲ばせる演出がなされています。番組を見ることで、かつての紅梅亭の賑わい、そして上方落語界の歴史の一端に触れることができるでしょう。

紅梅亭の物語は、単なる寄席の興亡の歴史にとどまりません。上方落語界の盛衰、人間模様、そして時代背景を複雑に絡み合わせた、興味深い歴史ドラマと言えるでしょう。その歴史を紐解くことで、私たちは日本の演芸文化の深淵に触れることができるのです。

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