金澤一郎

金澤 一郎（かなざわ いちろう）

金澤一郎氏は、日本の医学界において神経内科学および脳科学分野の発展に大きく貢献した著名な医学者です。その活動は教育、研究、行政、医療と多岐にわたり、多くの重要な役職を歴任しました。

経歴と研究活動

1941年6月20日、東京府（現在の東京都）に生まれた金澤氏は、東京都立日比谷高等学校を経て、1967年に東京大学医学部医学科を卒業しました。大学卒業後は東京大学医学部に残り、神経内科の研修医として臨床経験を積みました。1974年には渡英し、ケンブリッジ大学薬理学教室で客員研究員として研究活動を行いました。帰国後、1974年9月には「ヒト黒質内におけるγ-アミノ酪酸(GABA)の微細分布に関する研究」で東京大学より医学博士の学位を取得しています。

1976年、筑波大学臨床医学系神経内科の講師に就任し、医学者としてのキャリアを本格的にスタートさせました。筑波大学では神経医学研究に深く携わり、1979年に助教授、1990年には教授へと昇進しました。

1991年からは母校である東京大学医学部に戻り、脳研究所神経内科の教授を務めました。東京大学在任中には、大脳基底核や小脳の疾患に関する臨床研究、神経疾患の遺伝子解析、そして中枢神経系の神経活性物質の探索といった、脳科学の最先端をゆく研究を精力的に推進しました。その研究成果は国内外で高く評価され、この分野における日本の研究レベル向上に大きく寄与しました。

大学での教育・研究活動と並行し、金澤氏は様々な要職を務めました。1996年には東京大学教授の職にありながら、社団法人日本内科学会理事長、さらに文部省学術国際局科学官を兼任し、学術行政にも関わるようになりました。

1997年4月から1999年3月までの間は、東京大学医学部附属病院長として大学病院の運営を統括しました。2002年3月に東京大学を定年退官した後、同年4月からは国立精神・神経センター神経研究所の所長に就任し、神経・精神疾患の研究推進の中核を担いました。また、同時期に宮内庁長官官房の皇室医務主管という重要なポストにも就任し、皇室の方々の健康管理に携わりました。2002年5月には社団法人日本神経学会理事長も務めています。

金澤氏は日本の学術界全体にも大きな足跡を残しています。2006年には日本学術会議の会長に就任し、日本の学術のあり方や科学技術政策に対し提言を行いました。同時期には内閣府総合科学技術会議の評議員も務めています。また、沖縄科学技術大学院大学（OIST）設立にも深く関わり、独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構運営委員を経て、2011年には学校法人沖縄科学技術大学院大学学園理事を務めました。

2007年からは国際医療福祉大学大学院の副大学院長・教授として、2011年からは大学院長・教授として、後進の育成に力を注ぎました。2011年に日本学術会議会長を退任し、2012年6月には皇室医務主管を依願退官しましたが、引き続き宮内庁侍従職の御用掛として皇室医療に関与しました。また、2012年からは第一三共株式会社の取締役を務めるなど、医療関連産業界にも貢献しています。

この他、文部科学省日本ユネスコ国内委員会委員、高知県公立大学法人理事、NPO法人遺伝カウンセリング・ジャパン理事長、特定非営利活動法人脳の世紀推進会議副理事長など、多方面で活動しました。

受勲と死去

長年にわたる医学研究、教育、行政、そして皇室医療への多大な貢献が認められ、2013年11月には瑞宝重光章を受章しました。

2016年1月20日、膵臓癌のため東京都港区の病院で74歳で逝去されました。その功績は没後も高く評価され、正四位が追叙されています。

著書

『家庭医療～家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために～』（ライフメディコム 2002年）
『スタンダード家庭医療マニュアル』（永井書店 2005年）

金澤一郎氏は、神経内科学・脳科学のフロンティアを開拓した研究者であるとともに、多くの要職を通じて日本の医学・科学、そして社会全体に深い影響を与えた人物として、その名を留めています。

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