金環蝕 (石川達三の小説)

金環蝕

石川達三の長編小説『金環蝕』は、1966年に『サンデー毎日』で連載され、同年に単行本として刊行されました。この作品は、九頭竜川ダム汚職事件をモデルに、保守政党の総裁選挙をきっかけとした、政界の深い闇を描いています。タイトルが示すように、外見は華やかでも、内側は腐敗しているという、当時の政界の構造を象徴的に表現しています。

ストーリー

1964年夏、与党・民政党の総裁選挙が実施され、現総裁の寺田政臣と最大派閥領袖の酒井和明が激しく争いました。寺田派は、数で劣るものの、副総理である広野大悟の派閥と協力し、選挙戦を有利に進めようとします。両陣営は票集めに巨額の資金を投入し、その額は10億円を超えました。中には、神谷直吉代議士のように両陣営から資金を得る者もいました。選挙戦は激戦の末、寺田が三選を果たします。

選挙後、金融業を営む石原参吉のもとに、内閣官房の西尾貞一郎が星野康雄官房長官（寺田派）の名刺を持参し、資金提供を依頼します。石原はこれを断りますが、星野の名刺を持ち帰り、星野周辺に疑惑を感じ調査を開始します。その過程で、寺田の地元である九州の福流川ダム建設を巡る、竹田建設と電力開発株式会社の汚職が明らかになります。

竹田建設は寺田派の有力な献金企業でした。財部賢三総裁がネックとなり、若松圭吉副総裁を中心に、財部を追い落とす策が講じられます。財部は通産省の大川大臣によって辞任に追い込まれ、後任には松尾芳之助が就任します。これにより、竹田建設が福龍川ダム工事を受注する流れが確定し、竹田建設、電力開発、寺田派による汚職の構図が完成します。

竹田建設は、星野官房長官を通じて寺田に多額の賄賂を渡します。

映画化

1975年には、山本薩夫監督によって映画化されました。この映画は、第49回キネマ旬報ベスト・テンで第3位に選ばれています。

キャスト

星野康雄（官房長官）：仲代達矢
石原参吉（金融王）：宇野重吉
神谷直吉（陣笠代議士）：三國連太郎
朝倉節三（竹田建設専務）：西村晃
古垣常太郎（日本政治新聞社社長）：高橋悦史
松尾芳之助（電力開発後継総裁）：内藤武敏
財部賢三（電力開発総裁）：永井智雄
古垣欣二郎（常太郎の異母弟）：峰岸徹
若松圭吉（電力開発副総裁）：神山繁
西尾貞一郎（内閣秘書官）：山本學
寺田政臣（首相）：久米明
酒井和明（後継首相）：神田隆

スタッフ

監督：山本薩夫
製作：徳間康快、伊藤武郎
脚本：田坂啓
撮影：小林節雄
音楽：佐藤勝

現実との相違点

物語は、実際の九頭竜川ダム汚職事件をモデルにしていますが、一部設定が変更されています。

寺田首相は病死しますが、モデルである池田首相は癌で辞任しました。
星野官房長官のモデルである黒金は、総裁選前に官房長官を務めていました。
酒井総理誕生によって幹事長になった斎藤のモデル田中角栄は、佐藤政権発足後も大蔵大臣を留任しました。
作中のダムは福流川ダムですが、実際の九頭竜ダムは福井県にあります。

その他

劇中に登場する「船舶疑獄を暴いた石原メモ」は、「造船疑獄を暴いた森脇メモ」がモデルです。
* 「斎藤の竜野門事件」は、「田中角栄が関与した虎ノ門（国有地払い下げ）事件」を暗示しています。

『金環蝕』は、1960年代の政治腐敗を鋭く描き出した作品であり、現代社会にも通じる普遍的なテーマを扱っています。この作品は、小説、映画ともに、その時代背景を理解する上で重要な資料となっています。

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