金色のライオン (岡林信康のアルバム)

『金色のライオン』

1973年11月21日、岡林信康がCBS・ソニー移籍後初めて発表したスタジオ・アルバムが『金色のライオン』である。

制作背景

本作の制作は、友人の高木元照氏（如月音楽一家社長）がある時、当時京都に住んでいた岡林氏宅を訪れたことに始まる。その際、岡林氏からギターで弾き語りされた新曲群をカセットテープに録音し、東京に戻って松本隆氏に聞かせたところ、松本氏がその楽曲に深く感銘を受け、「ぜひレコーディングしよう」と強く推したことが直接のきっかけとなった。岡林氏自身もレコーディングに意欲を示したことから、本作は実現に至った。

コンセプトと音楽性

このアルバムは、岡林信康がそれまでの自己を深く見つめ直し、虚勢や無理を重ねてきた内面を自己分析する過程で生まれた作品と言える。その深層心理に眠っていた本質的な部分を表出させようという試みがなされており、特にボブ・ディランが用いた手法を独自に消化し、岡林流の表現として取り入れている点が特徴的である。音楽的には、プロデューサーを務めた松本隆氏が、岡林氏の「ボブ・ディランの『ジョン・ウェズリー・ハーディング』のような雰囲気にしたい」という意向を受けて、ウエスト・コースト・サウンド志向の演奏者を集めたという背景がある。

レコーディング

レコーディングは非常に短期間で集中的に行われた。岡林氏の農繁期が9月から始まることを考慮し、8月28日から30日までの実質3日間（最終日の30日はトラックダウン作業）という驚異的な速さで完成している。高木元照氏が「岡林の歌を聴いてほしいという気持ちが強く、岡林自身も歌は一発でやりたいと望んだため、全部演奏と同時録音です」と述べている通り、ほとんどの楽曲がスタジオでの同時演奏・同時録音、いわゆるスタジオ・ライヴ形式の一発録りで行われた。

収録曲からの考察

アルバムには全9曲が収録されており、作詞・作曲は全て岡林信康自身が手掛けている。特に興味深いのは「ホビット」という楽曲にまつわるエピソードである。この曲は、米軍基地のある岩国に、反戦的な兵士たちが出入りできる喫茶店「ホビット」を作りたいという構想が元になっている。岡林氏自身もその喫茶店建設のための大工工事に参加しており、現在も店内に当時作った椅子が残っているという。また、「ホビット」は、かつて自身の楽曲（例：「友よ」）が左翼運動のデモの行進曲として用いられ、自身がその運動の象徴的存在に祭り上げられた経験に対する苦悩と葛藤から生まれた側面も持つ。政治的な活動では何も根本的な解決にはならないと感じ、人と自然の関係を見つめ直すために田舎暮らしを始めた岡林氏だが、過去の政治的シンボルとしての記憶は払拭しきれず、ある晩そのことに葛藤する夢を見たことが歌の着想源となっている。夢の内容が長かったため、この楽曲はラップのような構成となり、ボブ・ディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」「追憶のハイウェイ61」「マギーズ・ファーム」といった楽曲が参考にされている。当初のタイトルは「追憶の国道六十九号線」であった。

また、「26ばんめの秋」は、このアルバムの中で最初に完成した楽曲である。

参加ミュージシャンとスタッフ

プロデューサーには「詩のわかる音楽家だから」という理由で松本隆氏が起用された。演奏陣は、岡林氏の意向を汲んだ松本氏によって集められたウエスト・コースト・サウンド志向の面々である。

ミュージシャン:
唄、ギター：岡林信康
ギター：伊藤銀次（ココナツ・バンク）
ベース・ギター：後藤次利（新六文銭）
キーボード：矢野誠（ムーンライダーズ）、鈴木紙、助川健
ドラム：松本隆

スタッフ:
制作：高木元照（如月音楽一家社長）
プロデュース：松本隆
ディレクター：前田仁
エンジニア：前島裕一
写真撮影：川仁忍

『金色のライオン』は、短期間での集中的な録音と、岡林信康自身の深い内面追求というテーマが融合した、彼のキャリアにおいても特異な位置を占めるアルバムと言える。

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