金融検査マニュアル

金融検査マニュアルとは

金融検査マニュアルは、かつて金融庁が金融機関の検査を行う際に用いていたマニュアルの通称です。このマニュアルは、銀行、保険会社、金融持株会社といった業態別に存在し、それぞれの金融機関の業務の健全性と適切性を確保するための指針となっていました。

マニュアルの正式名称

銀行用：「預金等受入金融機関に係る検査マニュアル」
保険会社用：「保険会社に係る検査マニュアル」
金融持株会社用：「金融持株会社に係る検査マニュアル」


これらのマニュアルは、検査官が検査を行う際に利用するだけでなく、各金融機関が自己責任原則に基づき、経営陣のリーダーシップのもと、創意工夫を凝らし、それぞれの規模や特性に応じた方針や内部規程を作成する際の参考としても活用されていました。

沿革

1990年代のバブル崩壊後、不良債権の増大により金融機関の経営が悪化したことを受け、1998年に「金融再生トータルプラン」が取りまとめられました。このプランに基づき、金融監督庁が設置され、「金融検査マニュアル検討会」でマニュアル案が作成されました。

1999年7月には「預金等受入金融機関に係る検査マニュアル」が制定され、翌年度から検査に使用されました。その後、2000年6月には「保険会社に係る検査マニュアル」が制定されました。

マニュアル作成においては、金融機関の自己責任原則に基づく経営を補強することを基本とし、以下の点が重視されました。

従来の当局指導型から自己管理型への転換
資産査定中心の検査からリスク管理重視の検査への転換


また、国際的な金融検査の動向やバーゼル銀行監督委員会の議論も考慮され、グローバルスタンダードを踏まえた内容となりました。

しかし、マニュアルが中小企業にも機械的に適用され、過度に厳しい債務者区分評価が行われた結果、中小企業の経営に支障が出たという批判も起こりました。これを受け、2002年6月には別冊として「中小企業融資編」が策定されました。

さらに、2002年12月には、みずほ[[銀行]]設立時のシステムトラブルを踏まえ、「システム統合リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト」が制定されました。また、2003年7月には、金融持株会社化の進展に対応するため、「金融持株会社に係る検査マニュアル」が定められました。

その後も、2007年2月にはバーゼルII（新BIS規制）に対応するため「預金等受入金融機関に係る検査マニュアル」が全面改訂され、2009年12月には中小企業金融円滑化法の施行に伴い、金融円滑化編が追加されました。

2011年3月には、東日本大震災発生に伴い、被災地の債務者への特例措置が発出されました。

その後、森信親元金融庁長官により、マニュアル依存型の検査体制が見直され、金融機関との対話を重視する方針に転換されたことで、マニュアルの重要性は低下しました。

そして、2019年12月に、金融検査マニュアルは廃止されました。

マニュアルの構成

各マニュアルは、基本的に以下の3つの段階で構成されています。

1. 経営陣による態勢整備・確立状況
2. 管理者による態勢整備・確立状況
3. 個別の問題点

検査官は、各項目について、PDCAサイクル（計画、実行、評価、改善）の視点から、以下の様なチェックリストを用いて管理態勢を確認します。

○○の方針を策定しているか
○○の規定・組織体制を整備しているか
○○の評価・改善を適切に行っているか

検査項目のカテゴリ

以下に、各マニュアルにおける検査項目のカテゴリを示します。

預金等受入金融機関に係る検査マニュアル

経営管理（ガバナンス）態勢
金融円滑化編
リスク管理編
法令等遵守態勢
顧客保護等管理態勢
統合的リスク管理態勢
自己資本管理態勢
信用リスク管理態勢
資産査定管理態勢
市場リスク管理態勢
流動性リスク管理態勢
オペレーショナル・リスク管理態勢

また、別冊として中小企業融資編、別編としてABL編、信託業務編、および「システム統合リスク管理態勢の確認検査用チェックリスト」があります。

保険会社に係る検査マニュアル

経営管理（ガバナンス）態勢
法令等遵守態勢
保険募集管理態勢
顧客保護等管理態勢
統合的リスク管理態勢
保険引受リスク管理態勢
資金運用リスク管理態勢
オペレーショナル・リスク管理態勢

金融持株会社に係る検査マニュアル

銀行持株会社
グループ経営（ガバナンス）態勢
グループ自己資本管理態勢
グループ統合的リスク管理態勢
保険持株会社
グループ経営（ガバナンス）態勢
グループ自己資本管理態勢
グループ統合的リスク管理態勢
証券持株会社
法令等遵守態勢
リスク管理態勢

参考文献

『金融機関の内部監査』中央経済社、2011年。ISBN 978-4-502-43820-2。

関連項目

内部統制
内部監査

外部リンク

金融庁 法令・指針等
資産査定3級・資産査定2級・実質長期借入金・取引採算（RACAR・RAROA)の無料テキスト・過去問・問題集

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