金鉱山整備令

金鉱山整備令とは

金鉱山整備令は、1943年（昭和18年）に日本政府が発令した、国内の金鉱山政策を大きく転換させた一連の政策の総称です。これは単一の法令ではなく、複数の閣議決定や商工省の方針によって構成されています。具体的には、1942年10月22日の「金鉱業及び錫鉱業ノ整理ニ関スル件」、1943年1月22日の「金鉱業ノ整備ニ関スル件」、そして同年4月9日の商工省による「金鉱業整備に関する方針要旨」などが含まれます。これらの政策は、金鉱業の整理や整備を目的としたもので、金山整備令、金鉱整備令、金整備令などとも呼ばれます。

金増産政策から閉山へ

第二次世界大戦開戦前、日本は金本位制を採用しており、欧米からの資材輸入の決済手段として金が重要な役割を果たしていました。そのため、政府は金の生産量を増やすために様々な政策を打ち出しました。具体的には、1897年に金一匁（3.75g）あたり5円と定められていた価格を、1932年には7円25銭、1934年には12円、1938年には14円43銭と、6年間で3倍近くまで引き上げました。

さらに、1937年には「産金買上規則」や「産金奨励規則」などの省令を制定し、金産出量に応じた割増金の交付や、探鉱・選鉱場、精錬所の設置に対する奨励金交付、鉱山鉄道運賃の引き下げ、機械類の無料貸与など、金鉱山開発を強力に支援しました。また、同年には「産金五ヶ年計画」も策定され、金増産への道筋が明確に示されました。これらの政策により、日本国内では多数の金鉱山が開発・操業され、増産体制が確立されました。

しかし、太平洋戦争（大東亜戦争）が開戦し、欧米からの軍需物資の輸入が途絶えると、海外支払い手段としての金の重要性は薄れました。代わって、銅、鉄、石炭、鉛、亜鉛、マンガンなど、戦争遂行に不可欠な鉱物資源の国内自給が重要となり、金鉱山からこれらの資源の採掘にシフトすることが求められました。その結果、金鉱山は原則として閉鎖されることになりました。

金鉱山の閉鎖とその後

金鉱山整備令により、すべての金鉱山は原則として休山または閉山となりました。ただし、金以外にも銅などの重要な鉱物を産出する鉱山や、銅精錬に必要な珪酸塩を産出する鉱山については操業が認められました。また、大規模な金鉱山は、戦後の再開に備えて操業は停止したものの、坑道が維持されました（保坑）。例えば、北海道では、恵庭鉱山や珊瑠鉱山など45ほどの鉱山が操業していましたが、この政策により、沼の上鉱山、音羽鉱山、手稲鉱山の3鉱山のみが操業を継続し、鴻之舞鉱山と千歳鉱山の2鉱山は保坑されることになりました。

閉山となった金鉱山の操業権は、戦時国策会社である帝国鉱業開発株式会社に移管されました。閉鎖された金鉱山の人員や設備は、他の鉱山の増産に振り向けられ、資源の効率的な利用が図られました。しかし、閉鎖された金鉱山の中には、排水ポンプの停止によって坑道が水没するなど、大きな被害を受けたものもあり、戦後の再稼働には多大な時間と労力を要しました。

金鉱山整備令は、日本の金鉱山史における大きな転換点であり、戦時下の資源政策の変遷を象徴する出来事と言えます。この政策は、戦後の鉱業復興にも大きな影響を与え、日本の産業構造に大きな変化をもたらしました。

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