釜賀一夫

釜賀一夫：日本の暗号史に名を刻む軍人、学者

釜賀一夫（1917年～2003年）は、日本の暗号史において重要な役割を果たした人物です。熊本県出身の陸軍軍人、そして戦後は陸上自衛隊員として暗号の開発と解読に携わり、情報セキュリティの分野でも大きな功績を残しました。その生涯と業績を紐解いていきましょう。

軍歴と暗号との出会い

釜賀は1937年、陸軍士官学校を卒業後、砲兵少尉として任官。その後、暗号教育で優秀な成績を収め、1938年には留守第12師団司令部付き暗号班長に抜擢されます。この頃から、彼の暗号研究への情熱が本格的に芽生え始めました。参謀本部や航空兵団司令部など、様々な部署で暗号業務に携わる中で、その専門性を磨いていったのです。

太平洋戦争中には、陸軍科学学校で数学を学び、東京帝国大学理学部物理学科にも入学。数学的知識を暗号解読に応用する試みが始まりました。1944年には陸軍少佐に昇進し、参謀本部第十一課暗号班に加わります。同時期には陸軍中央特殊情報部にも所属し、自国暗号の開発と敵国暗号の解読という、相反する二つの重要な任務を担っていました。

戦後の活躍と情報セキュリティへの貢献

戦後、警察予備隊を経て陸上自衛隊に入隊した釜賀は、調査別室の7科（資料解析、暗号解読）の長として活躍します。彼の専門知識と経験は、戦後の日本の情報セキュリティ体制構築に大きく貢献しました。1970年に陸将補として退官後も、光電製作所、内閣調査室、外務省の顧問を務め、その知見を活かし続けました。晩年まで暗号と情報セキュリティシンポジウムに参加し、情報セキュリティ分野の発展に貢献し続けました。

主要な業績

釜賀の業績は多岐に渡ります。以下にその重要なものをいくつか挙げます。

陸軍数学研究会（陸軍暗号学理研究会）の設立への貢献: 戦時中、大学数学者との連携を強化し、暗号解読に不可欠な数学的基盤を築きました。
独自の暗号解読手法の開発: 米陸軍の機械式暗号M-209の解読に成功した他、独自の暗号解読技術を開発し、日本の暗号技術向上に貢献しました。
符号理論における先駆的研究: Hammingに先駆けて、符号理論における距離の概念を「字差理論」として確立し、暗号通信における誤り訂正に応用しました。
暗号システムの改善とコスト削減: 武官用暗号を仮名文字からローマ字式に変更することで、年間240万円もの電報料金削減を実現しました。
ワンタイムパッドの導入: 理論上解読不能とされるワンタイムパッドを前線部隊に導入することに尽力しました。
数々の著作・論文の発表: ペンネーム「加藤正隆」名義で『基礎暗号学I・II』などの著書を発表し、暗号技術の普及に貢献しました。また、『数理科学』などの学術誌に多くの論文を発表しています。

「陸軍暗号＝パーフェクト」論争

釜賀は「陸軍暗号は破られなかった」という強い信念を持っており、海兵出身の暗号解読者である岩島久夫氏と、この問題に関して長く論争を繰り広げました。この論争は、日本の暗号技術の歴史を考える上で非常に重要な意味を持ちます。

結論

釜賀一夫は、軍人としてのキャリア、そして戦後の情報セキュリティへの貢献を通して、日本の暗号技術の発展に多大な影響を与えた人物です。彼の功績は、現代の情報社会においても、その重要性を失うことはありません。彼の生涯と業績は、未来の暗号技術者にとって貴重な指針となるでしょう。

もう一度検索