鈴木大拙館

金沢市の本多町に位置する鈴木大拙館は、地元が生んだ偉大な仏教学者、鈴木大拙（1870-1966）の世界観に触れ、訪れる人々が静かに自らの内面を見つめ直すための特別な空間として、2011年10月18日に開館しました。この開館日は、鈴木大拙の旧暦での生誕日にあたります。

金沢市によって設立されたこの施設は、大拙の生誕地にもほど近い場所にあり、隣接する本多の森公園の豊かな緑を借景として取り込んでいます。設計を手がけたのは、金沢との縁も深い建築家、谷口吉生氏です。谷口氏の設計は、鈴木大拙が重んじたとされる「静かさ」や「自由」といった精神性を建築を通して表現することを目指しており、周囲の自然との調和が見事に図られています。

施設は主に三つの建物、「玄関棟」「展示棟」「思索空間棟」で構成され、これらが開放的な回廊で結ばれています。回廊の両側には、静かな佇まいの庭が配されており、特に目を引くのが「水鏡の庭」です。浅く水を湛えたこの庭は、思索空間棟がまるで水面に浮かんでいるかのような幻想的な景色を生み出し、静謐な雰囲気を演出しています。

思索空間棟は、谷口氏が禅宗寺院の住職が過ごす空間である「方丈」から着想を得て設計されました。ここでは、水鏡の庭や本多の森の緑を眺めながら、心静かに座禅を組むことも可能です。一方、展示棟には、鈴木大拙ゆかりの書や写真など、約33点の収蔵品が展示されています。これらの展示品には、あえて詳しい解説文が付されていません。これは、来館者一人ひとりが展示品と向き合い、自らの感性で鈴木大拙の思想や人生について深く考えを巡らせることを促す、ユニークな試みです。

鈴木大拙は、その生涯において仏教思想を英文で世界に広く発信したことで知られます。そのため、鈴木大拙館の入館者には外国人が多く、その割合は約30％にも上ります。また、大拙の業績を国内外に伝える取り組みとして、大拙とゆかりのあるアメリカの二つの機関、ヘゲラー・ケーラス財団（イリノイ州）とアメリカ仏教研究センター（ニューヨーク市）との間で交流協定を締結しています。さらに、設計者の谷口吉生氏をはじめ、大拙と親交のあった日野原重明氏、哲学者・上田閑照氏、評論家・寺島実郎氏、ボストン日本協会のピーター・グリーリ氏といった錚々たる顔ぶれが、金沢市からアンバサダー（大使）に委嘱されており、施設の活動を多角的に支えています。

施設の立地は、金沢市の文化ゾーンに近く、周辺には金沢21世紀美術館や石川県立美術館、金沢市立中村記念美術館といった文化施設が集まっています。鈴木大拙館の設置に合わせて、本多の森公園の斜面に沿って中村記念美術館まで続く「緑の小径」が整備されました。また、近くを流れる辰巳用水沿いの道を利用すれば、これらの文化施設間を気軽に移動することができ、まちなかの回遊性が高められています。

鈴木大拙館はその建築の質の高さも評価されており、2015年には日本建設業連合会主催の第56回BCS賞を受賞しています。また、旅行サイトのトリップアドバイザーが発表する日本の博物館ランキングでは、2019年に第3位にランクインするなど、国内外からの注目を集めています。

開館から時を経て、施設の快適性を維持するため、2023年11月下旬からは床材や内装の張り替えを伴う休館を経て、2024年3月にリニューアルオープンしました。これにより、より快適な空間で鈴木大拙の世界に触れることができるようになっています。

鈴木大拙館へは、金沢駅から北陸鉄道バスを利用し、「本多町」バス停で下車すると便利です。周辺には、前述の文化施設のほか、本多の森公園や石川県立図書館などがあり、併せて散策を楽しむことができます。また、仏教学や哲学に関心のある方にとっては、鈴木大拙と同様に石川県出身の哲学者である西田幾多郎に関連する石川県西田幾多郎記念哲学館などと併せて訪れることで、より深い学びが得られるでしょう。

もう一度検索