鈴田照次

鈴田照次：鍋島更紗を現代に蘇らせた染織家

鈴田照次（1916年10月27日-1981年9月8日）は、日本の染織界に多大なる貢献を果たした巨匠です。佐賀県に生まれ、幼少期から芸術的な感性を磨いた彼は、東京高等工芸学校（現：千葉大学工学部）で工芸図案を学び、蝋染の技法を習得しました。卒業後は応召により兵役につきますが、除隊後、郷土玩具の創作などを通して、日本の伝統工芸への関心を深めていきました。

彼の名を不朽のものとしたのは、なんといっても鍋島更紗の復元です。鍋島更紗は、佐賀藩鍋島家ゆかりの、高度な技法を用いた伝統的な染織技術です。長らくその技法は失われたと考えられていましたが、鈴田は『鍋島更紗秘伝書』と『見本帖』を基に、その解明と復元に生涯を捧げました。

綿密な研究と試行錯誤の末、彼は独自の技法「木版摺更紗」を完成させました。これは、伝統的な技法を踏襲しつつ、現代的な解釈を加えた、革新的な技法でした。この功績により、鈴田は染織界のみならず、広く日本の伝統工芸分野において、高い評価を得ることとなります。

彼の活動は、単なる技術の復元に留まりません。沖縄で紅型に触れた経験や、稲垣稔次郎氏から学んだ型絵染の技法など、多様な染織技術への探求を通して、独自の感性を培い、数々の美しい作品を生み出しました。

日本工芸会正会員、理事として活躍する傍ら、インドネシア、セイロン、インドへの調査研究旅行を行い、世界各地の染織文化にも造詣を深めました。これらの経験は、彼の作品に深みと幅を与え、独自の芸術世界を確立する上で大きな役割を果たしたと考えられます。

鈴田照次の功績は、数々の受賞歴からも明らかです。日本工芸会会長賞、芸術選奨文部大臣賞を受賞し、紫綬褒章も受章しました。これらの栄誉は、彼の並外れた才能と努力、そして日本の伝統工芸への貢献を高く評価したものです。

彼は、自身の経験や研究成果をまとめた著作も残しています。代表作として『染織の旅』『型と版染・鈴田照次作品集』『染織の旅―源流を訪ねて』などが挙げられます。これらの著作は、後世の染織家や研究者にとって貴重な資料となっています。

鈴田照次は、1981年に64歳でこの世を去りました。しかし、彼の残した作品と技術、そして精神は、日本の染織界に、そして日本の伝統文化に、永遠に輝き続けるでしょう。彼の息子、鈴田滋人もまた染織家として人間国宝に認定されており、その才能は親子二代に渡って受け継がれています。鈴田照次の功績は、単なる一人の芸術家の業績を超え、日本の伝統文化の継承と発展に大きく貢献した、重要な歴史的遺産と言えるでしょう。

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