鉄塔 武蔵野線

鉄塔 武蔵野線

銀林みのるによる小説『鉄塔 武蔵野線』は、少年時代の冒険心と成長を描いた作品です。この物語は、小学5年生の少年が見慣れない鉄塔の標記に興味を持ち、そのルーツを探る旅に出るというあらすじで展開されます。作品名にある「武蔵野線」とは、実在する送電線のルート名であり、鉄道の武蔵野線とは直接的な関係はありません。

概要

この作品は、第6回日本ファンタジーノベル大賞を池上永一氏の『バガージマヌパナス』と共に受賞しました。選考委員の一人である荒俣宏氏は、本作を「一作にして『鉄塔文学』というジャンルを創ってしまった」と高く評価しています。

単行本は1994年12月に新潮社から出版され、その後映画化されると共に新潮文庫版も発行されました。文庫版では、一部加筆や著者の意向により結末が変更されています。その後、一時絶版となりましたが、2007年9月にソフトバンク文庫から再版されました。この再版時にも加筆が行われ、ハードカバー版、新潮文庫版、ソフトバンク文庫版で物語の内容が微妙に異なるという特徴があります。

あらすじ

物語の主人公である小学5年生の見晴は、父親の転勤で北多摩へ引っ越すことになります。夏休みのある日、彼は近所の鉄塔に「武蔵野線 75-1」という標記を見つけ、以前から抱いていた鉄塔への興味を再燃させます。見晴は、小学3年生の親友アキラと共に、1号鉄塔にあるという「原子力発電所」を目指し、鉄塔の真下にある「結界」に手作りのメダルを埋めながら冒険を繰り広げます。

冒険の途中、工事現場の作業員に注意されたり、自転車がパンクしたりといったトラブルに見舞われながらも、2人は旅を続けます。しかし、23号鉄塔付近で日が暮れてしまい、見晴とアキラは「原子力発電所」を目指すか帰宅するかで対立し、仲たがいしてしまいます。翌日、見晴は一人で「原子力発電所」を目指しますが、4号鉄塔付近で鉄塔保守課の巡視員に発見され、家に連れ戻されてしまいます。

秋になり、見晴の新居に黒塗りのリムジンがやってきます。そこから降りてきた紳士は、見晴をアキラの家へと連れて行きます。再会を果たした2人を乗せ、リムジンは更なる場所へと出発します。

登場人物

環見晴: 主人公。鉄塔に興味を持つ少年。
磨珠枝暁（アキラ）: 見晴の親友。冒険を通して鉄塔への興味の薄れに気づく。
見晴の父: 幼い頃の見晴を鉄塔に連れて行った。
暁の母: キャリアウーマン。見晴が憧れている。
果平晃一郎: 日向丘変電所所長。
ミヤザワヤスオ: 36号鉄塔 - 33号鉄塔の間で、見晴達と旅をする少年。

実在の武蔵野線

作中に登場する送電線「武蔵野線」は実在します。物語では、送電線名や鉄道路線名は実際のものが使用されていますが、変電所名や地名は架空のものに変更されています。

当初、武蔵野線は中東京変電所から武蔵野変電所を結ぶ送電線でしたが、後に一部区間が分割・廃止され、2020年時点で現存するのは中東京変電所～武蔵赤坂開閉所間の武蔵赤坂線のみとなっています。物語に登場する旧75-1号を含む一部区間は、「堀ノ内線」に改称されて現存しています。

映画

1997年には、本作を原作とした映画が公開されました。伊藤淳史さんが主演を務め、原作者の銀林みのる氏もロケハンに同行しています。

映画版では、小学6年生の見晴が両親の離婚により長崎へ引っ越すという設定に変更されており、夏休みに4年生の暁と共に1号鉄塔を目指す冒険が描かれています。

『鉄塔 武蔵野線』は、小説、映画を通じて、少年時代の冒険心や友情、そして喪失と再生を描いた作品として、多くの人々に愛されています。

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