鉄斎美術館

鉄斎美術館：富岡鉄斎の世界に浸る

鉄斎美術館は、兵庫県宝塚市の清荒神清澄寺の境内に佇む美術館です。1975年4月に開館し、南画家・富岡鉄斎の作品を展示しています。美術館は、清荒神清澄寺の第三十七世法主・坂本光浄が収集したコレクションを基に開設されました。光浄の鉄斎への深い敬愛と、その芸術を広く伝えたいという情熱が形になった場所と言えるでしょう。

現在、本館「聖光殿」は資料整理のため休館しており、展覧会は別館「史料館」で開催されています。かつて本館では入場料が必要でしたが、別館に移ってからは無料で鉄斎の作品を鑑賞できます。

坂本光浄と富岡鉄斎

坂本光浄は、清荒神清澄寺の発展に尽力した人物であるとともに、鉄斎の作品収集に情熱を注ぎました。当時、宝塚は宝塚歌劇団が誕生したばかりの頃で、光浄は宗教と文化を根付かせたいと考えていました。そんな中、鉄斎と親交のあった信徒総代の辰馬悦叟から、鉄斎の作品収集を勧められます。辰馬から贈られた「山水図」がコレクションの第一号となりました。

光浄は修行の傍ら、鉄斎の研究と作品収集に励み、1923年に京都の鉄斎を訪問。その人格と芸術に深く感銘を受けました。光浄は鉄斎を清澄寺に招くため、客殿「百錬堂」と茶室「春光庵」を建設しました。「百錬」は鉄斎の晩年の号に、「春光」は鉄斎の妻と光浄自身の名前に由来します。鉄斎の清澄寺訪問は実現しませんでしたが、代わりに最晩年の作品12点が贈られ、光浄が書の手本を請うと、鉄斎は『前赤壁賦書』を届けました。この作品は鉄斎自身が三日三晩かけて書き上げ、装丁も手掛けたものです。鉄斎は亡くなる三日前に光浄へ感謝の手紙を書き、光浄は鉄斎顕彰を決意しました。

光浄はその後、鉄斎芸術の普及のため、世界各地で巡回展を開催し、ギメ美術館やバチカン美術館など、著名な美術館に作品を寄贈しました。しかし、それでも鉄斎芸術の本質を伝えきれていないと感じ、1966年に研究委員会を発足、翌年には鉄斎研究所を設立し、研究誌『鉄斎研究』の発行を目指しました。光浄は95歳で亡くなりますが、その遺志は次代に引き継がれ、1975年に鉄斎美術館が開館しました。1999年には新収蔵庫が完成し、現在に至ります。

研究誌『鉄斎研究』

『鉄斎研究』は、富岡鉄斎の作品に付された賛文の読解・研究を目的とした研究誌です。1969年から1996年まで、休刊期間を挟みながら71号まで刊行されました。鉄斎の賛文は、書体の癖や古字の使用などにより解読が難しく、研究には困難を伴います。それでも、碩学や関係者の協力を得て、賛文の典拠となった典籍を丹念に調べ上げ、1900点もの作品が掲載されました。

所蔵品

鉄斎美術館は、絵画、書、陶器、粉本、書簡、筆録、愛蔵本、愛蔵品など、多岐にわたる鉄斎作品を所蔵しています。その数は絵画580点、書90点、清水六兵衛が作陶した陶器や木製・竹製の器物に鉄斎が絵付けたした器玩が100点、粉本350点、書簡が約50点、筆録300点、愛蔵本300点、愛蔵品100点に及びます。また、陶芸家・荒川豊蔵や書家・森田子龍の作品も所蔵しています。

年に数回の特別展が開催され、入館料は宝塚市立中央図書館の美術図書購入基金として寄付されています。

建築概要

竣工年：1975年
延床面積：896m2

アクセス

* 阪急宝塚線 清荒神駅 徒歩18分

鉄斎美術館は、富岡鉄斎の芸術に触れ、その奥深さを知ることができる貴重な場所です。ぜひ一度、足を運んでみてください。

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