銭起

銭起（せん き）は、中国唐代の詩人であり、字を仲文と称しました。彼の出身は湖州烏程県（現在の浙江省湖州市）です。生没年は明確には分かっていませんが、782年に没したとされています。


銭起は、天宝10載（751年）に進士に合格し、官吏としてのキャリアをスタートさせました。彼は、校書郎、考功郎中といった役職を歴任し、その才能と実績によって、大暦年間には太清宮使、さらには皇帝の側近である翰林学士にまで昇進しました。


彼は、詩人としての才能も高く評価されており、「大暦十才子」の一人に数えられています。大暦十才子とは、唐の第9代皇帝代宗の時代（大暦年間、766年 - 779年）に活躍した10人の著名な詩人のことで、彼らの詩風は当時の文学界に大きな影響を与えました。銭起は、その中でも特に著名な詩人である郎士元（ろう しげん）と並び称され、「銭郎」と呼ばれていました。


彼の作品は、後世に『銭考功集』として10巻にまとめられ、現在に伝えられています。この詩集は、彼の詩人としての才能を今に伝える貴重な資料となっています。


銭起の代表的な作品としては、五言絶句の『逢侠者（侠者に逢う）』と『江行無題』が挙げられます。


『逢侠者』は、旅の途中で出会った侠客の姿を、短い詩の中に鮮やかに描き出した作品です。義侠心に溢れる人物の様子を、簡潔ながらも力強い筆致で表現しており、読者の心に強い印象を与えます。


『江行無題』は、川を下る舟の上で感じた感慨を詠んだ詩です。水面を漂う舟の様子や、移り変わる風景を繊細に描写し、旅愁と物思いに耽る詩人の心情を、静かに、しかし深く表現しています。


これらの作品を通して、銭起は自然の美しさや人間の感情を巧みに捉え、独自の詩の世界を創り上げました。彼の詩は、技巧に走ることなく、平易な言葉で深く豊かな感情を表現するものであり、多くの人々に愛されています。


彼の詩は、当時の社会情勢や人々の生活を反映しているだけでなく、普遍的な人間の感情を表現しているため、現代の私たちにも共感を呼び起こします。銭起は、唐代を代表する詩人の一人として、後世の文学に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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