鋳方末彦

鋳方 末彦

日本の近代農業を支えた著名な植物病理学者、鋳方 末彦（いかた すえひこ）は、1894年（明治27年）8月27日に熊本県下益城郡小野部田村（現在の宇城市）に生を受けました。1976年（昭和51年）9月10日に82歳でその生涯を閉じるまで、植物の病害研究と農業技術の普及・向上に尽力しました。

経歴と研究活動

地元の八代中学校で学んだ後、1916年（大正5年）に鹿児島高等農林学校を卒業。官界に入り、まず農商務省福岡県農事試験場、次いで岡山県農事試験場に勤務しました。その後、農林省農事試験場の技師として、本格的に植物病害の研究に従事することとなります。

この時期から、日本の主要作物を脅かす様々な病害の研究に取り組みました。特に「小麦条斑病に関する研究」は高く評価され、日本の農学分野における権威ある賞の一つである日本農学会賞を受賞しました。また、1941年（昭和16年）には、「柿の重要寄生性病害に関する病理並びに治病学的研究」と題する卓越した研究成果をまとめ、九州大学より論文博士として農学博士の学位を授与されました。これは、長年の研究活動が学術的に認められた大きな節目となりました。

功績と受賞

鋳方博士の研究は多岐にわたり、その功績は広く認められています。前述の日本農学会賞に加え、日本の農業にとって最も深刻な病害の一つである「いもち病」の防除に関する試験研究でも顕著な成果を挙げ、富民協会賞を受賞しました。さらに、「小麦縞萎縮病に関する研究」をはじめとする一連の業績は、日本の小麦栽培を安定させる上で重要な貢献となり、農林大臣賞にも輝いています。これらの主要な賞以外にも、植物病理学分野および農業振興への貢献に対して、数多くの栄誉に浴しました。

その後の活動と貢献

1950年（昭和25年）には、岡山県立農業試験場の場長に就任。長年培った研究者としての視点と経験を活かし、現場に近い立場で地域の農業課題の解決に取り組みました。1962年（昭和37年）に公職を退いた後も、その情熱は衰えることなく、植物病理学の専門家として、そして教育者として活動を続けました。岡山県顧問として県政に助言を与えたほか、ノートルダム清心女子大学や美作女子大学で教授を務め、若い世代の育成に尽力しました。これらの教育機関での活動を通じて、将来の農業技術者や研究者を育てることにも貢献しました。

鋳方 末彦博士は、生涯を日本の植物病害研究に捧げ、その成果は国内の農業生産性の向上に大きく寄与しました。また、後進の指導にも熱心に取り組み、日本の植物病理学および農業技術分野の発展に多大な足跡を残しました。

主な著作

『果樹病害編』（養賢堂、1929年）
『柿の病害研究』（養賢堂、1942年）
『病虫防除相談』（朝倉書店、1949年）
『食用作物病学』（朝倉書店、1949年）

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