鹿児島高等農林学校

鹿児島高等農林学校（かごしまこうとうのうりんがっこう）は、明治時代後期の1908年（明治41年）に誕生した官立の旧制専門学校です。日露戦争終結後の日本において、特に産業の発展と南方地域の資源開発という国家的な要請に応えるため、国内で二番目の官立高等農林学校として設立されました。開校にあたっては、国会の承認を得た上で、地元である鹿児島県から広大な土地約16,000坪と建設費用の半分にあたる約110万円（総経費約220万円）という多大な寄附が行われ、地域社会の熱意が学校設立を後押ししました。

学校は当初、専門課程として修業年限3年の本科に農学科と林学科を設けました。その後、時代や産業構造の変化に対応するため、養蚕学科、農芸化学科、獣医学科を順次増設しています。農学科は一時期、農学・農芸化学・農芸生物の三部に分かれ、後に農芸化学科が独立するなどの組織改編も行われました。

教育と研究の基盤として、学校は鹿児島市荒田村（現在の鹿児島市上荒田町）に校地を構え、1910年には本館が完成しました。また、実習・演習の場として、1909年に高隈演習林（現在の垂水市）と佐多演習林（現在の南大隅町）という二つの広大な森林実習地が設置され、これらは現在も鹿児島大学農学部の施設として活用されています。その他にも、種子島牧場、唐湊実習地、桜島溶岩実験場、伊佐総合実験場などが設けられ、多様な環境での実践的な教育が行われました。特に注目されるのは、指宿植物試験場です。ここでは、温泉熱を利用して熱帯植物の栽培・研究が行われるなど、南方開発という設立目的に沿ったユニークな取り組みが進められました。

学生生活においては、1916年に寄宿舎が自治寮化され、「対岳寮」と命名されるなど、学生主体の活動が奨励されました。また、学生の研究組織である「図南会」が設立され、専門分野の研究発表などが行われました。1911年には、南国の雰囲気を伝える校歌「緑したたる南洋の」が制定され、学校のアイデンティティを育みました。卒業生や教職員による同窓会は「あらた同窓会」と称し、学校所在地（荒田）、新たな出発（新た）、そしてラテン語で「翼」（alata）という三つの意味が込められており、現在も旧制・新制合同で活動しています。

学校の歴史は順風満帆なだけでなく、困難も経験しました。1913年には暴風雨で農場の柑橘類が大被害を受け、翌1914年の桜島の大正大噴火でも農場や演習林が影響を受けました。また、1920年には大学への昇格を目指す運動が起こりましたが、これは実現しませんでした。太平洋戦争が激化する中の1944年には、勅令により学校名が「鹿児島農林専門学校」（鹿児島農専）と改称されました。終戦間際の1945年6月17日には、鹿児島大空襲により本館、寄宿舎、家畜病院など主要な建物や施設が焼失するという壊滅的な被害を受けました。

戦後の混乱期を経て、教育制度の大きな改革が断行されました。旧制専門学校や師範学校などを統合し、原則として各県に一つの国立大学を置くという方針のもと、新制鹿児島大学の設立計画が進められました。県内にあった第七高等学校造士館、水産専門学校、師範学校、青年師範学校などと共に、鹿児島農林専門学校も新制大学の構成要素となり、特に福岡の九州大学に対抗しうる総合大学を鹿児島に築くという意図もありました。その結果、1948年には「国立鹿児島総合大学設立準備委員会」が発足し、翌1949年5月31日に新制鹿児島大学が農学部、文理学部、教育学部、水産学部の体制で発足するにあたり、鹿児島農林専門学校はその農学部の母体として包摂されました。学校自体は「鹿児島大学鹿児島農林専門学校」と改称され、獣医専攻科の設置などを経て、1952年3月にその歴史に幕を閉じました。

鹿児島高等農林学校が使用していた荒田校地は、現在も鹿児島大学が継承し使用しており、住所は鹿児島市郡元となっています。また、創立時に建設された図書館の建物は、現在「鹿児島大学総合研究博物館 常設展示室」として利用されており、国の登録有形文化財にも指定されています。この建物は、激しい戦災を乗り越え、旧制専門学校時代の姿を今に伝える貴重な遺構となっています。

歴代校長は以下の通りです。

初代：玉利 喜造 （1909年5月～1922年6月）
第2代：吉村 清尚 （1922年6月～1935年4月）
第3代：草野 嶽男 （1935年4月～1936年9月）
第4代：小出 満二 （1936年10月～1938年4月）
第5代：谷口 熊之助 （1938年4月～1945年1月）
第6代：三浦 虎六 （1945年11月～1952年3月）

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