鍋島焼

鍋島焼：佐賀藩が生んだ至高の磁器

鍋島焼は、17世紀から19世紀にかけて、佐賀藩（鍋島藩）の窯で生産された、まさに藩の威信をかけた高級磁器です。佐賀県有田町や伊万里市といった、日本を代表する磁器産地の中でも、特に伊万里市南部の大川内山にあった藩直営の窯で焼かれた作品群を指します。藩主の日常品や将軍家、諸大名への贈答品として制作されたため、その精緻な技術と洗練されたデザインは、他の磁器を圧倒する存在感を放っています。近代以降は「鍋島焼」と呼ばれるようになり、伊万里焼の一様式として「鍋島様式」と呼ばれることもあります。廃藩置県によって一度は途絶えたものの、今泉今右衛門家によってその技法が現代に復興され、脈々と受け継がれています。

鍋島焼の起源と歴史

日本の磁器生産が本格的に始まったのは17世紀初頭。朝鮮から渡来した陶工の技術が基盤となり、有田・伊万里地方は磁器生産の中心地として発展しました。鍋島焼の正確な創始時期は不明ですが、伝承では1628年（寛永5年）、有田の岩谷川内で始まったとされています。その後、南川原を経て、1675年（延宝3年）には大川内山に移転。この大川内山窯が鍋島焼の中心地となり、独特の様式が確立されました。

鍋島焼の歴史を紐解く上で重要な史料として、『有田皿山代官江相渡手頭写』があります。これは1693年（元禄6年）、2代藩主鍋島光茂が皿山代官に出した指示書で、藩が鍋島焼の品質管理にいかに力を注いでいたかを示しています。指示書には、現代風のデザインを取り入れること、納期の厳守、他窯との技術交流の禁止、不良品の廃棄など、厳しい注文が記されています。

大川内藩窯は、細工方、画工、捻細工、下働きなど、多くの職人で構成され、磁土の精製から絵付け、焼成まで、高度な分業体制が敷かれていました。特に色絵は、下絵付けを大川内で、上絵付けを有田の赤絵町で行うなど、工程を明確に分割することで品質管理を徹底していました。窯が山間部の大川内に置かれていたのも、技術漏洩を防ぐためだと考えられます。

廃藩置県後と現代

1871年（明治4年）の廃藩置県により、大川内藩窯は閉鎖されましたが、鍋島焼の伝統は赤絵町の今泉今右衛門家によって受け継がれました。9代今泉今右衛門の没後、家督を継いだ10代は、登り窯を築き、一貫生産体制を確立。以降、歴代の今泉今右衛門は、皇室御用品の製作や近代生活に合わせた器種の開発など、時代の変化に対応しながらも、伝統技法を守り続けてきました。色鍋島技術保存会は国の重要無形文化財「色鍋島」の保持者として認定され、その技術は現代に受け継がれています。13代、14代と、人間国宝にも認定された今泉今右衛門は、伝統を守りつつ、新たな技法の開発にも取り組み、鍋島焼の伝統に新たな息吹を吹き込んでいます。

鍋島焼の特徴

鍋島焼の製品は、皿、向付などの食器類が中心です。特に直径約30cmの尺皿は、その希少性から高く評価されています。作風は、色絵の「色鍋島」が有名ですが、染付、青磁、錆釉、瑠璃釉など、多彩な技法が用いられています。「墨はじき」という技法も特徴的で、青と白のコントラストが美しい文様を生み出します。文様は、幾何学模様、植物、野菜、風景画など多様ですが、いずれも純和風のデザインであることが特徴です。

鍋島焼は、かつては将軍や大名への贈答品として作られ、一般にはほとんど流通しませんでしたが、大正時代以降、その芸術性が見直され、鑑賞陶磁として高く評価されるようになりました。現在では、多くの美術館やコレクターに所蔵され、その美しさは世界中の人々を魅了し続けています。

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