鍋島直弘

鍋島直弘は、江戸時代前期に活躍した肥前国佐賀藩の藩士であり、白石鍋島家の初代当主として知られています。彼は、佐賀藩主である鍋島勝茂の八男として元和4年（1618年）に誕生しました。幼名は翁介と名付けられましたが、生後間もなく家臣の成富茂安の養子となります。

寛永10年（1633年）には、養父である茂安から1000石を分与され、一家を創設しました。その後、寛永14年（1637年）の島原の乱に出陣し、武士としての功績を重ねます。寛永19年（1642年）には、着到帳において知行高が6000石に加増され、その存在感を示しました。正保3年（1646年）には、実父である勝茂から鍋島姓を与えられ、一門としての地位を確立します。明暦2年（1656年）の着到帳では、知行高が9025石となり、家中3番目の席次となるなど、藩内での重みを増していきました。

直弘は、藩内で佐賀郡代や借銀方の頭人（藩財政の責任者）といった役目を担っていましたが、その陰では、龍造寺四家が務める請役家老を監督するという重要な役割も担っていたとされています。藩の財政を支える一方で、藩内の有力者を監視するという、二つの重要な任務をこなしていたのです。

直弘は、藩主である鍋島光茂に対し、和歌への熱中を諫める書状を送ったことでも知られています。また、幕府から課せられている長崎警備の役目を細川家に奪われないよう、藩主を諫めるなど、藩政に積極的に関わっていたことが伺えます。

寛文元年（1661年）7月7日、直弘は44歳でこの世を去りました。遺言により、養父である茂安が眠る本行寺に葬られました。直弘の死後、白石家の家臣36人が殉死しようとしましたが、光茂はこれを禁じ、殉死を思いとどまらせました。光茂は家臣たちの忠義心を認めつつも、直弘の跡を継いだ翁介（後の直堯）に仕えることこそが、直弘への恩に報いる道であると諭しました。この出来事は、紀州藩主の徳川光貞にも伝わり、無益な死を禁じた光茂の判断を称賛し、幕府にも伝えるよう家臣に命じました。その後、寛文3年（1665年）には、幕府も殉死を禁じることとなります。

白石鍋島家は、鍋島直弘を初代とする家系であり、白石に屋敷を構えたことからその名で呼ばれるようになりました。代々の当主は「山城」を通称とし、「城州」とも呼ばれました。藩内における家格は、御親類筆頭とされ、藩主である鍋島光茂末期には、白石鍋島家の知行高は2万276石余に達しました。

明治30年（1897年）10月27日には、鍋島直明が男爵に叙爵され、その家系は近代においてもその名を残しました。

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