久米正雄

久米正雄：多彩な才能を発揮した作家

久米正雄（1891年11月23日 - 1952年3月1日）は、小説家、劇作家、俳人として、日本の文学史に足跡を残しました。彼は「微苦笑」という言葉を創り出したことでも知られています。本記事では、彼の生涯、文学活動、そして彼を取り巻く人間関係について詳しく解説します。

生い立ちと文学への目覚め

久米正雄は長野県上田市で生まれました。父親は小学校の校長でしたが、明治天皇の御真影を焼失させた責任を取り自害。幼い久米は母の故郷である福島県で育ちました。母方の祖父は安積原野の開拓に尽力した人物であり、その影響もあってか、向学心旺盛な少年時代を送りました。

旧制福島県立安積中学校に進学した久米は、俳句の才能を開花させます。学校の仲間と俳句愛好会を結成し、教師の指導を受けながら俳句に熱中しました。その才能は俳壇でも注目され、第一高等学校への推薦入学を果たします。東京帝国大学文学部英文学科に進学後、成瀬正一、松岡譲らと第三次『新思潮』を創刊し、文壇デビューを果たしました。

文学活動と恋愛

大学在学中には、戯曲「牛乳屋の兄弟」で認められ、夏目漱石の門下生となります。芥川龍之介、菊池寛らと第四次「新思潮」を創刊し、文学活動を本格化させました。この頃、中条百合子との交流がありましたが、恋愛関係には発展しませんでした。この経験は、彼の随筆『彼女と私』に詳しく記されています。

夏目漱石の死後、久米は漱石の長女・筆子に恋をしますが、様々な事情が重なり破局。その後、筆子は久米の親友であった松岡譲と結婚します。この出来事は、芥川龍之介との間に微妙な感情を生み、芥川は松岡を揶揄する句を久米に送っています。しかし、久米は松岡への友情を捨てきれず、葛藤を抱えながらも連絡を取ろうと試みました。

大衆小説家としての成功

失恋の痛手を抱えながらも、久米は作家として生きることを決意します。菊池寛の勧めで『時事新報』に「蛍草」を連載し、これが大衆小説家としての成功のきっかけとなりました。その後、「不死鳥」や「冷火」など、数多くの人気作品を発表し、流行作家としての地位を確立しました。しかし、彼は大衆小説を手がける傍ら、芸術小説への憧れも抱き続けました。

後年

1922年には、かつての失恋事件を題材にした小説「破船」を発表。この作品では、松岡譲と筆子を敬意をもって描き、大きな反響を呼びました。その後、元芸妓の奥野艶子と結婚し、鎌倉に居を構えました。

晩年は、高血圧に苦しみながらも、文筆活動を続けました。彼は、文芸家協会や鎌倉ペンクラブの活動にも積極的に参加し、後進の育成にも尽力しました。1952年、脳溢血により急逝。彼の忌日は「三汀忌」または「微苦笑忌」と呼ばれ、今も多くの人々に偲ばれています。

久米正雄の文学的遺産

久米正雄は、小説、戯曲、俳句、評論など、幅広い分野で才能を発揮しました。彼の作品は、時代の変化とともに作風を変えながらも、常に人間の感情や社会の矛盾を描き続けました。彼の文学的遺産は、今もなお多くの読者に感動と共感を与えています。

彼の作品は青空文庫で読むことができます。また、郡山市の「こおりやま文学の森資料館」には久米正雄記念館があり、彼の業績を偲ぶことができます。

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