鎖帷子

鎖帷子：古今東西の防御具

鎖帷子とは、金属の輪を繋げて作った防具の一種です。肌着のような麻製の帷子に由来する名称で、衣服の下に着込むことから「着込み」とも呼ばれていました。その歴史は古く、紀元前3世紀頃のヨーロッパの墓から出土した遺物も存在します。東西問わず、古代から現代まで使用され続け、その名称や形態は地域によって多様性に富んでいます。西洋ではホーバーク、バーニ、チェインメイルなどと呼ばれ、必ずしも衣服の下に着込むとは限りません。外衣の上に着用することもありました。

歴史

鎖帷子の起源は、古代ケルト人にまで遡ると言われています。初期のものは胸部のみを覆う簡素なものでしたが、ローマ軍との戦闘を通して改良が進みました。ダキア人などの遊牧民も鎖帷子を使用しており、その後ゲルマン民族、ノルマン人へと広がり、ノルマン人のものは兜と連結した長いものが特徴的でした。十字軍の時代には、頭部と胴体部が分離され、より細かい輪を用いた精巧な鎖帷子が登場しました。しかし、中世ヨーロッパの鎖帷子の品質はローマ時代のものよりも劣り、10世紀頃には武器の攻撃力が防御力を上回る「鉄血の時代」が訪れました。

中国には唐の時代に伝わったとされ、日本には室町時代初期から登場しました。当初は鎧の下に着込むものとして用いられていましたが、江戸時代になると衣服の下に着込むようになりました。東欧や西アジアなどでは、ラメラーアーマーが主流であったため、鎖帷子は補助的な防具としての役割にとどまりました。しかし、中国では15世紀頃、火器の発達によってラメラーアーマーが衰退すると、鎖帷子が主流の防具となりました。

基本的な構造

鎖帷子は、細く延ばした鋼線の輪を繋げて作られます。輪を平たく潰して作られたものや、鎖を布に縫い付けたものなども存在します。西洋では14世紀頃までは、継ぎ目のない輪と継ぎ目のある輪を交互に使用して編んでいました。編み方は複数存在し、4 to 1、6 to 1など、隣接する輪の数で分類されます。一般的には4 to 1の編み方が主流でした。輪の末端はリベットでかしめて固定します。現代では、鋼線をコイル状に巻き付け、それを切断することで効率的に輪を作ります。鉄線は、鉄板を細くカットして加工する方法と、棒状に鍛造してから引っ張ってワイヤーにする方法があります。

有効性

イギリスの武具博物館による調査では、「中世のほとんどの武器で貫通させるのはほぼ不可能」と結論付けられています。その強度は、接続方法、素材、織密度、線径によって決まります。リベット留めされていない場合は貫通する可能性がありますが、リベット留めされていれば、鋭い刃先の矢や一部の槍などが貫通する程度になります。しかし、重い打撃武器には効果が弱いため、ヘルメットやギャンベゾンなどが併用されました。

利点

鎖帷子の利点は、柔軟性と防御効果の高さです。金属板の鎧よりも簡単に製作でき、柔軟性に優れ、皮革の鎧よりも高い防御効果を備えています。身体の動きを妨げにくいため、長時間着用しても活動しやすいのが特徴です。ただし、全重量が肩にかかるため、長時間着用するのは容易ではありません。

鎖帷子は、刀剣による切断や槍の突き刺しに対して高い防御効果を発揮します。ショートボウの矢にも有効ですが、鎖の隙間を狙うエストックなどには効果がありません。また、鈍器による打撃や、重量のある武器の攻撃には弱いという弱点があります。しかし、板金鎧と比べて、矢や弩、銃弾に対する防御効果は高かったです。そのため、現代でも防刃着として用いられる場合があり、ボディアーマーと併用することで防御力を向上させます。

他の防具との併用

鎖帷子は重ね着が可能という特徴も持っています。身分の高い者は平服の下に着込み、戦場では革鎧や板金鎧と併用することで防御力を高めました。重装騎士は、革鎧や綿入りの鎧下に鎖帷子を着用し、さらに全身を覆う鋼の甲冑を着用することもありました。鎖帷子は関節部などの防御が難しい箇所をカバーできますが、重量のある板金甲冑の下に着込むのは実際には困難でした。そのため、関節部分に鎖帷子状の補強を施した鎧下の方が西洋では普及しました。日本でも、武将や忍者が鎖帷子を使用しました。

手入れ方法

鎖帷子は磨耗しやすいため、定期的な手入れが必要です。油を含ませた布で磨いて錆を防ぎ、錆びてしまった部分は磨き粉で落として油を塗布します。かつては、大量の鎖帷子を錆落としする際には、砂を入れた容器でかき混ぜるという重労働が行われていました。破損した部分は、同じ材質の針金で縫い合わせるか、部品ごと交換します。

関連項目

鎧、忍者、ボディアーマー、メイルコイフ、アヴァンテイル、畳具足

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