鑑定人

鑑定人（かんていにん）

鑑定人とは、特定の専門分野における深い知識や経験に基づいて、判断や意見を述べる人物を指します。その役割は多岐にわたり、例えば法廷での訴訟手続きや、港湾における貨物の取り扱いの場面などで、専門家としての客観的な見解を提供します。

一口に鑑定人といっても、その活躍する分野によって性質や役割は異なります。主に法的な手続きに関わる「訴訟法上の鑑定人」と、港湾での貨物運送に関わる「港湾運送事業法上の鑑定人」が知られています。また、交通事故の原因究明を行う交通事故鑑定人や、損害保険の査定に携わる損害保険登録鑑定人など、様々な専門分野の鑑定人が存在します。

訴訟法上の鑑定人

裁判手続きにおいて、特定の専門分野に関する事実関係の判断や、専門的な評価が必要となる場面があります。このような場合に、裁判所は専門家である鑑定人に鑑定を嘱託し、その知見に基づいた意見を聴取します。鑑定人は、自身が持つ学識経験に照らして、対象となる事実について専門的な判断を述べることが求められます。

証人との最も大きな違いは、求められる供述の内容です。証人は、過去に自身が見聞きした具体的な事実をありのままに証言する義務があります。これに対し、鑑定人は、自己の専門的知見を根拠として、ある事実に対する判断や評価を述べます。ただし、専門的な学識経験を持つ証人が、その知識を活かして具体的な事実認識について証言する場合もあり、これを特に「鑑定証人」と呼んで区別することもあります。

訴訟法上の鑑定人は、裁判官が事実を認定し、心証を形成する作業を専門的な側面から支援する役割を担います。しかし、日本の裁判制度においては、裁判官が証拠や鑑定結果に基づいて自由に判断する自由心証主義が採用されています。したがって、裁判官は必ずしも鑑定人の意見に拘束されるわけではなく、他の証拠や事実と照らし合わせて総合的に判断を行います。

刑事訴訟法第168条では鑑定人の規定が置かれており、また、死体解剖保存法に基づき、裁判所の判断によって鑑定人が死体解剖を行うこともあります。

港湾運送事業法上の鑑定人

港湾における貨物の積み込みや運送の過程においても、専門的な知識を持つ鑑定人が重要な役割を果たします。港湾運送事業法上の鑑定人は、船に積み込まれる貨物の状態を確認し、海上輸送に適した梱包や積み方がなされているかを判断します。また、港湾での運送作業中に貨物が損傷した場合に、その損害の状況や原因を調査し、専門的な見地から鑑定を行います。

この分野の鑑定人に関しては、過去に制度の大きな変遷がありました。かつては港湾運送事業法に規定があり、所定の研修を修了し、認定試験に合格した上で、国の機関に登録する必要がありました。しかし、日本の港湾や海運業の国際競争力を高めるための規制緩和の一環として、平成17年（2005年）11月1日の法改正により、この登録制度は廃止されました。

登録制度廃止後、平成18年（2006年）5月15日からは、港湾における鑑定事業を行う事業者に対して、事業の許可基準として、一定の知識や技能を備えた鑑定人を最低3名以上雇用または保有することが義務付けられるようになりました。これは、個人の資格登録から、事業者が専門家を組織として確保することを求める形への変化と言えます。

鑑定事業に必要な知識・技能については、関連する専門職である検数事業等に使用される検数人の要件が参考になります。これには、1年以上の実務経験、または海事に関する一般教養や専門科目、さらには長期間の実務研修を含む所定の研修の修了などが定められています。

様々な分野で専門家として活動する鑑定人は、社会の公平性や円滑な経済活動を支える上で、なくてはならない存在と言えます。

もう一度検索