長崎の鐘

長崎の鐘

『長崎の鐘』（ながさきのかね）は、著者永井隆によって執筆された随筆で、原子爆弾による被爆の悲劇とその後の救護活動をテーマにしています。本書は、当時長崎医科大学（現・長崎大学医学部）の助教授であった永井の視点から、1945年8月9日に起こった原爆投下の瞬間と、その後の苦難を克明に描写しています。

被爆の状況と救護活動

永井は、爆心地に近い長崎医科大学で被爆し、右側頭動脈を切断する重傷を負いながらも、被爆者の救護に努めました。彼が直面したのは、完全に破壊された長崎の街や、火傷を負いながら亡くなっていく同僚や市民たちの姿でした。特に永井自身も妻を失い、医師としての使命感と個人的な悲しみに苛まれながら、同僚たちや看護師たちの支えによって生き延びました。

本作のタイトル「長崎の鐘」とは、原爆投下によって破壊されたカトリック浦上教会の「アンジェラスの鐘」を指しており、奇跡的に地中から掘り出された鐘が特に感慨深いエピソードとして紹介されています。

発表とその影響

1948年には、当初の題名「原子時代の開幕」が連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の検閲を経て変更され、出版が許可されるに至りました。『長崎の鐘』は同じ年に日比谷出版社から出版され、紙不足の時代にも関わらず大ヒットとなるベストセラーとなりました。この作品は、精神科医・式場隆三郎氏などの尽力を受け、様々なメディアで話題を呼びました。

続いて、著作を基にした歌謡曲や映画も制作され、特に藤山一郎が歌った「長崎の鐘」は大ヒットを記録しました。歌詞には直接的な原爆描写はありませんが、戦争の悲劇による全ての受難者を讃える内容が込められています。

映画化

1950年には松竹により映画化され、永井の生涯を描く作品として公開されました。監督は大庭秀雄が務め、当時のGHQによる検閲のため、原爆や被爆状況を直接描写することはできませんでしたが、永井隆博士の人生を通してその悲劇を伝えました。この映画は、日本で初めて原爆をテーマにした劇映画としても重要な位置を占めています。

平和の象徴

現在では、長崎の平和公園内に「長崎の鐘」と呼ばれる鐘が残されており、被爆者の慰霊のためのモニュメントとなっています。この鐘は1977年に建設され、長崎において原爆によって亡くなった人々への追悼行事が行われています。

結論

『長崎の鐘』は、単なる戦争の記録を超えて、戦争や原爆の惨禍が人々にもたらす影響を深く考察した作品です。その後の音楽や映画と相まって、今なお多くの人々の心に響き続けています。著者永井隆の思いが込められたこの作品は、平和の重要性を改めて考えさせる格好の資料であり、未来への警鐘でもあります。

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