長崎国旗事件

長崎国旗事件の概要

長崎国旗事件は1958年5月2日に発生した事件で、右翼団体に属する男性が長崎市内で開催されていた「中国切手・切り紙展覧会」において、中華人民共和国の国旗を引き下ろし、毀損したことが引き金となりました。これにより、日本と中国との関係は厳しい冷却状態に突入し、外交問題に発展しました。

事件が起きた背景には、当時の日本政府が中華民国（台湾）を正規の政府として承認していたという事情がありました。この展示会は日中友好協会長崎支部の主催で行われ、会場には中華人民共和国の国旗である五星紅旗が飾られていました。主催者の意図は、展示物の雰囲気を出すためであり、一部の非公式な展示として扱われるものでした。しかし、台湾政府からの抗議を受け、在長崎中華民国領事館からも国旗掲揚の非合法性に関する警告が発せられました。

事件が起きたのは、展示会の最中に男性が会場に乱入した時です。彼は五星紅旗を引き下ろし、毀損しましたが、旗自体に大きな破損はなかったため、後の調査では器物損壊罪として処理されました。日本の司法はこの事件に対して比較的軽い処罰を行い、男性は500円の科料を科されました。

一方で、中国側はこの事件に対し、非常に厳しい非難を示しました。特に、当時の首相岸信介の対応には強い批判の声が上がり、5月9日には中国の陳毅副総理が日本との貿易を中止する決定を発表しました。この制裁により、日本と中国の貿易関係は約2年半にわたり停滞し、商工業者への影響は大きく、特に日中の文化交流にも悪影響が及びました。当初、留学生の受け入れ計画も中止となり、社会的影響は広範囲に及びました。

この事件は、朝日新聞をはじめとするメディアでも大きく報じられました。新聞社の社説では、「保護されるべき国旗は公式行事に使用されるものに限られ、今回は装飾用としての国旗であるため、中国側の反応は過剰である」といった内容が取り上げられました。また、その後の調査により、事件は在長崎中華民国領事館が日本の右翼団体と連絡を取っていた結果、引き起こされたものであることが判明しました。

以上が長崎国旗事件の概要ですが、同様の事件はこの時期に他にも発生しています。例えば、1956年7月に大阪で行われた京劇俳優梅蘭芳の来日に際して、関西の華僑団体が中華民国国旗を取り去るという事件がありましたが、こちらも外国国章損壊罪としての立件は困難な結果となりました。

長崎国旗事件は、日中関係の歴史を知る上で重要な出来事であり、国際関係や外交の複雑さを象徴する一例といえるでしょう。

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