長崎市民歌

長崎市民歌

「長崎市民歌」は、九州北西部に位置する港湾都市、長崎市によって1959年（昭和34年）に制定された楽曲です。この歌の制定は、当時の長崎市にとって大きな節目であった市制70周年の記念事業の一環として、また新築された市役所庁舎の落成を祝う記念行事に合わせて行われました。

制定の背景と懸賞募集

市民歌制定にあたり、長崎市は広く市民から歌詞と楽曲を公募する懸賞募集を実施しました。これは市民の一体感を醸成し、新たな時代の長崎を象徴する歌を生み出すための取り組みでした。この募集では、市民歌だけでなく、市の新たな民謡となる楽曲も同時に募られました。募集を経て選ばれた作品は、日本コロムビア株式会社によってレコードとして制作・販売されました。当時のレコードは、従来のSP盤から長時間録音可能なビニール盤への移行期にあたっていたため、同じ内容が両方の規格でリリースされるという、技術的な変遷を示す記録ともなっています。

作者と複雑なクレジット

市民歌の歌詞部門で最優秀作品として選ばれたのは、「青井果（あおい きのみ）」という名義で応募されたものでした。青井果氏は、三菱重工業長崎造船所に勤務する研究員であり、「海をこえて友よきたれ」といった楽曲の作者としても知られる土井一郎氏の別名義でした。一方、作曲部門で入選したのは、国立音楽大学で講師を務めていた鈴木重氏の応募作品です。しかし、日本コロムビアが製造した公式レコード盤では、実際の作詞者である青井果氏や作曲者の鈴木重氏の名前はクレジットされていませんでした。代わって記されていたのは「長崎市選定」という名義のみです。

さらに、この楽曲には著名な作曲家である古関裕而氏が補作曲および編曲として深く関与しています。特に、楽曲の旋律には古関氏によって大幅な手が加えられており、応募時の原曲から変化していると伝えられています。このため、実質的な楽曲の完成には古関裕而氏の貢献が極めて大きかったと言えます。

この市民歌が初めて公の場で歌われ、レコードに収録された際の歌唱者は、当時の人気歌手であった藤山一郎氏と安西愛子氏によるデュエットでした。

同時募集された新民謡

市民歌の募集と同時に行われた新民謡の募集でも、入選作として「モッテコイ節」が誕生しました。この楽曲は市民歌と同じレコードのB面に収録されました。「モッテコイ節」の実質的な作者は、作詞が水木節子氏、作曲が松永鉄四郎氏であるとされていますが、こちらも市民歌と同様に、レコード盤には作者名ではなく「長崎市選定」というクレジットしか掲載されていませんでした。

既存の市歌との関係

長崎市には、「長崎市民歌」が制定されるよりも26年早い、1933年（昭和8年）に制定された別の公式な歌が存在します。それが「長崎市歌」です。長崎市歌は、作詞を松原清美氏が、作曲を橋本國彦氏が手掛けたものです。長崎市民歌の制定は、この既存の市歌に取って代わる、いわゆる「代替わり」を意味するものではありませんでした。現在においても、長崎市歌と長崎市民歌の二つの歌が公式に並立している状態が続いています。ただし、長崎市の公式サイトなどで市の歌として紹介される際には、市民歌よりも長崎市歌のみが取り上げられることが多いようです。このように、「長崎市民歌」は、市の歴史的な節目に生まれ、著名な音楽家たちが関わりながらも、そのクレジットや既存の歌との関係において、いくつかの興味深い側面を持つ楽曲と言えます。

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