長崎重芳

長崎重芳（ながさき しげよし）

戦前から戦後にかけて日本のバレーボール界を牽引し、「重砲」や「球神」、「日本バレーの父」と称された伝説的な人物、長崎重芳（1914-1997）。

広島県広島市に生まれた長崎は、中学時代にバレーボールと出会います。当初は野球を志していましたが、進学先の広島二中（現在の広島観音高校）でその卓越した身体能力を見出され、バレーボール部へと勧誘されました。身長約180センチ、体重約80キロという当時としては稀に見る恵まれた体格と、人並外れた運動神経を兼ね備えていた長崎は、すぐに頭角を現します。神戸高商のOBという優れた指導者たちから薫陶を受け、当時の9人制バレーにおけるエースポジションである中衛左として活躍。弱冠14歳で全日本候補に選ばれるほどの早熟ぶりを見せました。

中学3年生の時には、チームを初の全国中等排球選手権大会優勝へと導き、以降卒業までこの大会を3連覇。さらに、新設された明治神宮体育大会（現在の国民体育大会の前身）も制覇しました。彼の代名詞となったのは、驚異的な威力を誇るドライブ性のスパイクです。3人がかりでブロックしても止められず、相手選手の指を骨折させたという逸話も残るほどで、その破壊力から名前をもじって「重砲」と呼ばれ、後世まで語り継がれることになります。試合が劣勢になると、チームの攻撃は彼に集中。「オール重砲」と恐れられた戦術は、長崎のいるチームに次々と勝利をもたらしました。16歳で極東選手権競技大会の全日本候補に選出されるなど、戦前の日本バレー界において、長崎はすでに群を抜いた存在でした。

その後、早稲田大学政治経済学部に進学した長崎は、先輩が創設した早稲田大学バレーボール部を関東学生バレーの強豪へと育て上げます。また、広島二中クラブのエースとしても日本一を獲得。当時の全国のバレーボール選手にとって目標であり、「その高き峰を打ち破るため精進を重ねた」と言わしめるほどの影響力を持っていました。1934年には極東選手権競技大会で全日本選手に選出され、日本のバレーボールを牽引。全日本排球選手権大会（現在の全日本選手権）では、当時の盟主であった呉水雷倶楽部と3年連続で決勝を戦い、1935年には相手の強固なブロックを打ち破って日本一の座につき、早稲田大学の第一次黄金時代を築きました。1936年には日本大学バレー界初の海外遠征にも参加しています。卒業後も朝鮮でプレーを続け、チームを優勝させるなど、その活躍は国内にとどまりませんでした。

太平洋戦争を経て日本のバレーボールは一時的に停滞しますが、長崎は戦後も現役選手としてコートに立ち続けます。芸陽クラブや広島二中クラブでプレーし、42歳まで現役を貫きました。選手としてだけでなく、坂上光男や前田豊といった戦後日本のバレーボールを復興させた指導者たちと共に、その中心的役割を担いました。また、日本バレーボール協会の常任理事、幹部として、組織運営の舵取りにも深く関与しました。

指導者としては、1954年に戦後初めて結成された全日本の主将を務め香港遠征に参加。1955年の第1回バレーボール選手権では、得意とする9人制の男子監督として、日本バレーボール初の国際大会金メダルを獲得しました。1957年にはコーチ兼選手として世界青年友好大会に参加。この頃、世界の主流であった国際式（6人制）を日本に導入するか、馴染み深い極東式（9人制）を続けるかでバレーボール界は意見が分かれていましたが、長崎は大多数が9人制に固執する中で、積極的に6人制への移行を提唱し、推進のリーダーとなりました。1958年に6人制の全日本男子監督に就任してからは、特に高いネットや長身選手に対応するために、体力や跳躍力の強化を基本とする科学的なトレーニングを導入。この年のアジア競技大会で6人制として初の優勝を果たします。1960年には、日本バレーが初めて世界レベルの大会に挑んだ世界選手権で男子監督を務め、1962年の同大会ではヘッドコーチを務めました。1962年のジャカルタアジア競技大会では、6人制と9人制の両方で男子監督として金メダルを獲得。この年、後に「世界一のセッター」と呼ばれることになる猫田勝敏を全日本に抜擢したのも長崎でした。1963年にはフランス代表チームの指導にあたるなど、日本バレーの世界進出、飛躍期における強化に奔走しました。彼の監督在任中には、女子バレーの「東洋の魔女」のような世界的な成功には至りませんでしたが、その後の坂上光男や松平康隆といった後進の指導者たちが、長崎が築いた基礎の上に立ち、男子バレーも世界の頂点へと駆け上がることになります。

晩年は、広島県バレーボール協会会長や広島工業大学教授などを務め、故郷のバレーボール振興や後進の育成に尽力しました。その多大な功績により、1973年に文部大臣表彰、1976年には藍綬褒章を受章しています。

選手として比類なき力を発揮し、指導者として戦後の日本バレーを復興させ、国際化の波の中でリーダーシップを発揮した長崎重芳は、文字通り「日本バレーの父」として、その名を日本のスポーツ史に刻んでいます。

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