長嶺ヤス子

長嶺ヤス子：日本の舞踏家の軌跡

長嶺ヤス子（ながみねやすこ）は、1936年2月13日生まれの日本の舞踏家、ダンサーで、福島県会津若松市の出身です。彼女はフラメンコから始まり、その後日本の伝統音楽に深く関わることになります。彼女の舞台は、フラメンコと日本の古典舞踊の融合を特徴としており、彼女の作り出す肉体表現は多くの観客に感動をもたらしました。

フラメンコの道のり

長嶺は1955年、スペイン舞踊を習い始めました。1960年には青山学院大学を中退し、スペインに渡ります。マドリッドでダンスを学ぶ中で、彼女はフラメンコの真髄に触れることになります。しかし、プロとして活動し始めると、日本人ダンサーとしての役割に対する戸惑いもありました。しかし、あるアドバイスがきっかけで、長嶺は裸足でフラメンコを踊るスタイルを発見し、これが彼女の特異性を生む結果となりました。この新しい形の舞踊が現地で絶賛され、彼女の名は広がっていきました。

1975年には「イグナシオ・サンチェス・メヒーアスへの哀歌」で文化庁芸術祭優秀賞を受賞し、1977年には公演「サロメ」でゴールデン・アロー賞を獲得。彼女の名声は、日本とスペインの間を架ける存在となっていきました。しかし、彼女の私生活には恋愛とプロデュース面での難しさがあり、やがて日本へ帰国することになります。

日本の古典音楽への転身

帰国した長嶺は、フラメンコ以上に日本の伝統音楽、特に長唄や三味線に心を奪われました。「娘道成寺」という楽曲に感銘を受け、1000回以上も聴くことでそのリズムを身につけました。1980年の公演「道成寺」では、古典と現代舞踊の融合に成功し、文化庁芸術祭大賞を受賞。1982年にはニューヨーク公演も行い、アメリカでも高い評価を受けました。

深い虚無感と猫との出会い

しかし、ニューヨーク公演の成功を契機に、長嶺は内的な虚無感に悩むこととなります。経済的な問題や、舞台前の緊張感が失われたことによる違和感など、様々な要因が重なり、彼女は苦悩の時期を迎えました。そんな彼女を救ったのが、いくつかの捨て猫や捨て犬との出会いでした。1980年には猫を轢いてしまったことがきっかけで、長嶺は150匹以上の猫と20匹ほどの犬を育てることになります。この一歩は、マスコミからは「猫が足を引っ張る」と批判されたものの、彼女にとっては新たな生き方の発見につながりました。

新たな舞台「曼荼羅」の誕生

1983年、彼女は空海入寂1150周年を記念して、僧侶の読経による舞踊「曼荼羅」を企画。初演では83名の僧侶による声明を背景に、人間の業と救済をテーマにした舞台を展開し、1994年にはニューヨーク公演を行い高い反響を得ました。以降も「安達ヶ原」や「浮世風呂」など伝統を基にした作品を数々発表し、1988年には創作フラメンコを再開しました。

画家としての新たな挑戦と評価

1995年からは油彩画を描き始め、毎年個展を開催するなど、その活動は舞踊だけにとどまりません。2001年には紫綬褒章を受章するなど、彼女の芸術的な活動は多方面にわたり続けています。また、テレビ出演も行い、舞踏における彼女の存在感を広めてきました。

長嶺ヤス子は、フラメンコから日本の伝統芸能へと移行しながらも、自らのスタイルを常に追求し続ける舞踏家として、日本の文化界において重要な位置を占めています。彼女の人生は、芸術と生き物への愛情が交錯する豊かなものであり、その努力と情熱は、今後の世代にも影響を与えていくことでしょう。

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