長恨歌

長恨歌：唐の詩人白居易による不滅の恋物語

『長恨歌』は、唐代の偉大な詩人白居易が806年に創作した長編漢詩です。120句にも及ぶ壮大な作品は、唐玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋を描き、その後の中国文学、ひいては日本文学にも多大な影響を与えました。白居易が35歳、盩厔県尉として赴任していた時代に生まれたこの作品は、七言古詩（歌行）という形式で書かれ、その叙情的な表現とドラマチックな展開は、今もなお人々を魅了し続けています。

あらすじ：永遠の愛と悲劇の運命

長恨歌は、玄宗皇帝が楊貴妃という絶世の美女に出会い、深く恋に落ちる物語から始まります。皇帝は楊貴妃にのめり込み、政治を顧みないほどになり、その一族を重用します。しかし、その驕奢が安史の乱という大規模な反乱を引き起こし、皇帝は都から逃亡を余儀なくされます。混乱の中、楊貴妃は反乱軍の怒りを買って殺害されてしまいます。

反乱が鎮圧された後、都に戻った皇帝は、楊貴妃を失った悲しみと後悔にさいなまれます。そこで道士が、仙界に楊貴妃の魂を探しに行きます。そしてついに、太真と名乗る楊貴妃と再会を果たします。太真は道士を通して、皇帝に永遠の愛を誓った言葉を伝えます。「天にあっては比翼の鳥のように、地にあっては連理の枝のように」。それは、かつて二人が交わした、永遠の愛の誓いでした。

詩の内容：歴史と虚構の織りなすドラマ

『長恨歌』は、歴史的事実をそのまま反映した作品ではありません。玄宗皇帝と楊貴妃を、漢の武帝と李夫人という架空の人物に置き換えることで、当時の政治状況への配慮が見られます。楊貴妃が玄宗皇帝の子である寿王の妃であったこと、そして皇帝が息子の妻を奪ったという史実も、巧みに物語に織り込まれています。

詩には楊貴妃の美しさも克明に描写されています。「温泉水滑洗凝脂」「雪膚」といった表現は、彼女の白く美しい肌を鮮やかに描き出しています。また、「雲鬢花顔」「花貌」「芙蓉如面柳如眉」といった表現は、彼女の顔立ちの美しさを際立たせています。「侍兒扶起嬌無力」「金歩搖」といった表現は、楊貴妃のしとやかな様子を表しています。

日本文学への影響：永遠のテーマとして

『長恨歌』は、中国のみならず、日本にも大きな影響を与えました。特に『源氏物語』の桐壺の巻における桐壺帝と桐壺更衣の悲恋は、『長恨歌』を彷彿とさせます。紫式部は、『長恨歌』の物語を平安時代の日本風に巧みにアレンジし、自身の作品に取り入れています。これは、『長恨歌』が当時の貴族社会において広く知られていたことを示しています。

主題：愛か、諷諭か

『長恨歌』の主題については、長年にわたって議論が続けられてきました。「愛情」を主題とする見方と、「諷諭」（世の乱れへの戒め）を主題とする見方があります。陳鴻の『長恨歌伝』では、「諷諭」という解釈が示されていますが、日本では「愛情」を主題とする解釈が一般的です。近年では中国においても「愛情」を主題とする見方が広まりつつあります。

白居易と『長恨歌』：詩人の生涯と作品

白居易は、唐代を代表する詩人であり、その作品は庶民の生活や社会問題などを題材としたものが多く、人々の心に深く響きました。『長恨歌』はその中でも特に有名な作品であり、白居易の詩人としての才能と、人間の感情を深く理解する能力の高さを示すものです。

まとめ：普遍的な魅力

『長恨歌』は、皇帝と貴妃の悲恋という枠組みを超え、普遍的な愛と喪失、権力と欲望といった人間の根源的なテーマを描いた作品です。その洗練された表現とドラマチックな展開は、時代を超えて人々を魅了し続け、文学史に燦然と輝く不朽の名作として、これからも語り継がれていくでしょう。

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