長柄運河

長柄運河：新淀川開削と地域発展を支えた水路

長柄運河は、明治時代後期における淀川改修工事という大規模プロジェクトの産物として誕生しました。1897年から1910年にかけて行われた新淀川の開削工事は、淀川下流域の治水と航行の改善を目的としていました。それまでの淀川は、大川（旧淀川）、中津川、神崎川の3つに分かれ、蛇行した狭い川幅が問題となっていました。

この改修工事では、中津川の一部を利用して、大阪市都島区の毛馬から此花区の伝法に至る一直線の放水路（新淀川）が建設されました。長柄運河は、この新淀川開削工事と密接に関連して造られた人工の水路です。工事で発生した大量の土砂の運搬手段として、また、新淀川以南の地域への灌漑用水供給や舟運の利便性を高める目的で建設されました。

長柄運河は、旧中津川を水源とする正蓮寺川と六軒家川へと流れ込んでいました。これらの水路は、周辺地域における工業用水供給などにも利用され、地域経済の発展に貢献しました。運河の存在は、当時の産業活動にとって欠かせないインフラであったと言えるでしょう。

しかし、昭和42年（1967年）、正蓮寺川の治水事業に伴い、長柄運河は埋め立てられることとなりました。長年、地域社会を支えてきた運河は、時代の変化とともにその役割を終えました。運河が埋め立てられてからも、その河道は草の生い茂る窪地として、かつて運河が存在したことを静かに物語っていました。

運河にかかっていた橋は、2019年12月まで残存していましたが、阪神高速2号淀川左岸線の延伸工事のため撤去されました。この橋の撤去は、長柄運河の痕跡が物理的に消滅していく一つの象徴的な出来事と言えるでしょう。

現在、長柄運河そのものは存在しませんが、その歴史は、明治時代の淀川改修工事、そして大阪の都市発展と深く結びついています。土砂運搬から灌漑用水供給、工業用水利用まで、多様な役割を担ってきた長柄運河は、近代大阪の歴史を語る上で重要な存在として記憶されるべきでしょう。かつて水路が流れていた場所、そしてそこに架かっていた橋が、その歴史を今に伝えています。 埋め立てられた跡地は、今では想像もつかないほど様変わりしていることでしょうが、歴史を紐解くことで、その存在の大きさを改めて認識することができるはずです。

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