長次郎

初代長次郎：侘び茶の精神を体現した陶工

初代長次郎は、安土桃山時代を代表する、京都で活躍した陶工です。千家十職の一つである楽吉左衛門家の初代として知られ、楽焼という独自の焼き物の技法を確立しました。彼の名は長祐、通称は長次郎、あるいは長二郎と呼ばれていました。

千利休との出会い、そして楽焼の誕生

長次郎は、茶の湯の大成者として名高い千利休と深く関わりを持ちました。利休の侘びの思想を深く理解し、その美意識を反映した茶碗を制作しました。赤楽茶碗や黒楽茶碗に代表される彼の作品は、装飾性を極力排し、重厚で深い存在感を放つのが特徴です。

長次郎は、轆轤（ろくろ）を用いずに手捏ねで茶碗を成形するという独自の技法を用いました。この技法は、当時の主流であった精緻な中国製の茶碗とは一線を画すものでした。利休は、長次郎の侘びた風情を持つ茶碗を高く評価し、彼に茶碗の制作を依頼するようになりました。

楽焼の素地には、聚楽第の建設の際に掘り出された土（聚楽土）が使われたと伝えられています。そして、「楽家」や「楽焼」の名も、この「聚楽」に由来するとされています。

長次郎の技法と楽焼の特徴

長次郎の楽焼は、低火度の焼き物で、日本中世の伝統的な高火度の陶器や、中国の陶磁器とは異なる独特のものです。侘び茶の精神と深く結びついており、茶の湯のためにのみ制作されました。そのため、日常生活用品は作られていません。茶碗の他に、香台、花入、香炉、灰器なども制作されました。

楽焼の特徴は、その素朴さと力強さです。長次郎は、装飾性を極力抑え、土の持つ自然な風合いを活かすことを重視しました。その結果、独特の温かみと深みのある作品が生まれました。

長次郎の出自と謎

長次郎の出自については、いまだ不明な点が多く残されています。しかし、楽焼の技術が中国明時代の「華南三彩」に繋がることから、福建省あたり出身ではないかと推測されています。また、低火度釉の施釉陶器である交趾焼の技法にも精通していたと考えられています。

代表作とその後

長次郎の作品は、現在でも多くが現存し、重要文化財に指定されているものも多いです。「二彩獅子像」、「赤楽茶碗 銘『無一物』」、「黒楽茶碗 銘『面影』」などが代表的な作品です。他にも、「長次郎七種」や「長次郎外七種」として知られる、利休が特に愛したとされる茶碗のグループも存在します。

天正17年（1589年）に長次郎は亡くなりました。その後、二代長次郎（長祐）が家業を継ぎましたが、若くして亡くなってしまいました。

楽家とその後継者

『宗入文書』（元禄元年（1688年））によると、二代長次郎の妻は、田中宗慶の孫娘でした。宗慶とその子息らとともに工房を構え、作陶を行なったと伝えられています。

長次郎の功績

初代長次郎は、独自の技法と侘びの精神を体現した楽焼を創始し、日本の茶の湯文化に大きな貢献をしました。彼の作品は、現在でも多くの人々を魅了し続けています。その功績は、日本の陶芸史において高く評価されています。

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