長船 (髪型)

長船（おさふね）

長船は、江戸時代も後半になってから結われるようになった、特徴的な日本髪の髪型です。その形状は、当時広く普及していた丸髷といくらか似た印象を与えますが、構造はより複雑で独特な成り立ちをしています。名称の由来については、残念ながら現在では明らかになっていません。

特徴的な形状

長船の最も特徴的な点は、髷が三つの部分から構成されていることです。中央に大きく結われた髷があり、その両側からやや小ぶりな輪が覗き込むように作られます。この三つの輪が一体となって一つの髷を形成する点は、同じく三つ輪構造を持つ三つ輪髷と同系統とされますが、長船では中央の輪が特に大きく結われる点が異なります。

その見た目は、中央の大きな髷の両側に小さな輪が付随しているようにも見えますし、あるいは銀杏返しという別の髪型の上に丸髷を重ねたような複雑な形とも形容できます。これらの三つの輪は、丈長（たけなが）と呼ばれる布や紙製の細長いものでまとめられるのが一般的な結い方でした。

誰が結ったか

長船は、特定の身分の女性や状況にある女性に結われることが多かったと伝えられています。特に、妾（めかけ）の髪型として広く認識されていました。また、結婚したばかりでまだ懐妊していない「半元服」と呼ばれる時期の女性にも結われることがありました。

明治時代に入ってからも、この髪型は見られたようです。例えば、明治35年（1902年）の東京の髪結いの談話録には、当時の長船に関する興味深い言及があります。それによると、当時も時折この髪型を見かけることがあり、「何ともいえない色気のある髪」と評されていました。特に、芝居の世界では妾役の女性が長船を結ぶのが定番となっており、役柄の持つ雰囲気を効果的に表現するための髪型として定着していたことがうかがえます。談話の中では、芝居の妾がこの髪型を結んでいるのを見ると、その役の心情がよく表されていると感じると述べられています。

ただし、同じ談話には、髷の形や櫛の入れ方といった結い方次第で、この髪型も十分に上品で高尚な印象になり得るとの指摘もあり、一概に特定のイメージに固定されるものではなかった可能性も示唆されています。

その他の用法

長船という言葉は、前述のような三つ輪構成の髪型以外にも、別の髪型を指す例も見られます。文献によっては、吹輪（ふきわ）と笄髷（こうがいまげ）という、それぞれ異なる特徴を持つ髪型を組み合わせて結ったものを「長船」と呼ぶケースもあるようです。これは、同じ名称でも時代や地域、あるいは解釈によって指す髪型に違いがあった可能性を示しています。

総じて、長船は江戸時代後期に生まれ、特定の女性たちに愛用され、その独特の形状と結い方によって、当時の髪型文化の中で独自の地位を占めていた髪型と言えるでしょう。

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