長銀事件

長銀事件の概要と裁判の経緯

1998年、日本長期信用銀行（長銀）は、深刻な財政悪化に直面していました。3月期決算において、長銀は巨額の不良債権を処理せず、約3100億円もの損失を隠蔽した有価証券報告書を提出しました。さらに、利益がないにもかかわらず、株主に約71億円もの違法配当を行いました。

この不正会計によって、長銀は金融再生法の適用第一号となり、破綻。24兆円もの資産を有する巨大銀行の破綻は世界的な衝撃を与えました。その後、長銀は国有化され、投入された公的資金約7兆8000億円の内、約3兆6000億円が回収不能となりました。

東京地検特捜部は捜査を開始し、1999年5月には重要参考人だった経営陣2名が自殺。同年6月、特捜部は、大野木克信頭取ら旧経営陣3名を証券取引法違反（粉飾決算）と銀行法違反（検査妨害）容疑で逮捕しました。

裁判の経緯と最高裁判決

逮捕された旧経営陣3名は、当初は粉飾決算を認めたものの、裁判では当時の会計基準に照らし、適法だったと無罪を主張しました。

2002年9月、東京地裁は、1997年3月の大蔵省通達に従い、関連ノンバンクへの資産査定を厳しくするべきだったとして、旧経営陣に執行猶予付きの有罪判決を下しました。2005年6月、東京高裁も控訴を棄却。

しかし、2008年7月18日、最高裁は、大蔵省通達は指針に過ぎず、当時の会計処理は罪に問えないと、無罪判決を下しました。大手銀行18行のうち14行が旧基準で不良債権処理をしていたという実態が考慮されました。

ただし、最高裁判決でも、長銀の決算は当時の会計基準では違法ではなかったものの、企業会計の原則や証券取引法の観点から問題があったと指摘する補足意見も出されました。長銀の不良債権を引き継いだ整理回収機構は民事裁判を起こしましたが、1998年3月期決算に関する賠償責任は認められませんでした。

長銀事件のその後と影響

長銀事件と類似性の高い日債銀事件にも影響を与え、特に、大蔵省OBの刑事責任の有無や、長銀破綻における杉浦敏介氏の責任（公訴時効により免責）などが議論の的となりました。検察による調査についても、問題点の指摘がありました。

長銀事件は、日本の金融システムの問題点、会計基準の解釈、そして公的資金の運用などの問題を改めて浮き彫りにした歴史的な事件と言えます。企業の透明性と責任、そして公的機関の役割に関する議論は、現在もなお重要な課題となっています。 この事件は、日本の金融制度改革や企業会計の透明性向上に大きな影響を与え、現代においてもその教訓が引き継がれています。

参考文献

伯野卓彦『レクイエム　「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち』NHK出版、2007年
更田義彦『長銀最高裁無罪事件読本』2011年

関連項目

* 金融国会

もう一度検索