閑谷学校

旧閑谷学校：庶民教育の礎を築いた歴史的建造物

岡山県備前市閑谷に位置する旧閑谷学校は、江戸時代前期、岡山藩主池田光政によって創設された庶民学校です。日本最古の庶民学校として知られ、その歴史的価値、建築的価値から、講堂は国宝、校地全体は国の特別史跡に指定されています。300年以上もの歴史を刻み、数々の著名人を輩出したこの学校は、日本の教育史において重要な役割を果たしました。

池田光政の理想と、庶民への教育機会

岡山藩校「岡山学校」に続く学校として、藩主池田光政は、藩士だけでなく、庶民の子弟にも教育の機会を与えたいという強い意志をもって閑谷学校を創設しました。8歳から20歳頃までの幅広い年齢層の生徒を受け入れ、儒教の講義を中心に、質の高い教育を提供しました。カリキュラムは、1と6が付く日に講堂で儒教の講義を行い、5と10が付く日は休日とするなど、工夫を凝らしていました。

光政は、学校運営に藩財政を投入するのではなく、学田や学林を設けることで、学校を藩政から独立させました。これは、藩主交代による学校存続を危惧した光政の賢明な判断であり、学校運営の継続性を重視していたことがうかがえます。

壮麗な建造物と、紅葉の名所

閑谷学校は、講堂を始め、小斎、飲室、文庫、聖廟など、多くの建物から成り立っています。講堂は国宝に、その他の24棟は国の重要文化財に指定されており、その建築様式は、当時の高い技術力を示すものです。特に、講堂の漆塗りの床は、手の脂で漆が剥がれるため、触ってはいけないと伝えられています。

校地には、2本の大きな楷の木や紅葉が美しく、秋の紅葉の名所としても知られています。周辺には、津田永忠宅跡や黄葉亭なども含まれ、国の特別史跡として保護されています。

閑谷学校の瓦：300年を経た高い耐久性

閑谷学校の建物に使用されている瓦は、釉薬を使用しない窯変瓦です。焼き具合によって色合いが異なり、一般の瓦の寿命が約60年であるのに対し、300年以上経ってもほとんど割れることなく使用されている高い耐久性を誇ります。高温で焼結されているためですが、反面、制作過程で変形しやすく、雨漏りしやすいという欠点があったため、様々な漏水対策が施されています。

瓦は、閑谷学校近くの閑谷窯で焼かれたもので、備前焼とは異なることが分かっています。登り窯の遺構は部分的に残っており、当時の様子をしのぶことができます。

明治以降の変遷：閉鎖と再興

明治維新後、閑谷学校は一時閉鎖されましたが、その後、山田方谷らによって「閑谷精舎」として再開、さらに西毅一らによって「閑谷黌」として再興されました。閑谷黌では、英学、漢学、数学を教え、小説家の正宗白鳥や詩人の三木露風なども学んでいます。

その後、私立閑谷中学校、岡山県閑谷中学校、岡山県立閑谷高等学校を経て、昭和39年に教育の場としての歴史に幕を閉じました。現在は、岡山県青少年教育センター閑谷学校として、社会教育施設として活用されています。

まとめ：歴史と文化を伝える貴重な遺産

旧閑谷学校は、単なる教育施設としてだけでなく、日本の歴史、文化、建築技術を伝える貴重な遺産です。その歴史的背景、建築様式、そして紅葉の名所としての魅力は、多くの人々を惹きつけ続けています。訪れる際には、歴史的建造物の美しさ、そしてその背後にある歴史に思いを馳せてみてください。

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