関市立篠田桃紅美術空間

関市立篠田桃紅美術空間：夭折した地方都市の美術館

岐阜県関市に存在した「関市立篠田桃紅美術空間」は、現代美術の巨匠・篠田桃紅の作品を展示する美術館でした。関市役所7階という、公共施設のスペースを利用したユニークな立地が特徴的でした。

美術館誕生の経緯：行政と企業の協力

篠田桃紅は岐阜市にゆかりのある父と関市出身の祖母のもとで育ち、幼少期から美濃和紙に親しむなど、関市と深い繋がりを持っていました。この地域との結びつきを背景に、関市の文化振興事業の一環として、地元企業である鍋屋バイテック（当時鍋屋工業）が所蔵する篠田桃紅の作品を展示する美術館が設立されることになったのです。

1990年代、篠田桃紅自身は岐阜県に自身の美術館を建設したいと考えていましたが、行政主導での実現は困難でした。そこで、多くの篠田桃紅作品を所有していた鍋屋バイテックが建設に協力することとなり、当時関市長を務めていた後藤昭夫氏の尽力もあり、関市への誘致が決まりました。市役所7階という、当初は将来的な拡張スペースとして確保されていた場所が、美術空間として活用されることになったのです。

天皇皇后両陛下のご視察と休館

2010年6月には、第30回全国豊かな海づくり大会の開催に合わせて、天皇皇后両陛下が視察に訪れるなど、地域にとって重要な文化施設としての役割を果たしていました。しかし、2022年3月からは設備の老朽化による改修工事のため休館、2023年6月に再開したものの、2024年2月12日より再び休館となり、同年3月31日に閉館となりました。作品は鍋屋バイテックに返却されました。

施設概要：コンパクトながらも充実した空間

美術空間は、決して大規模な施設ではありませんでしたが、篠田桃紅の作品約30点を常設展示する展示室、エントランス、ロビー、ミュージアムショップなどを備えていました。年間3～4回の展示替えを行い、来場者に新鮮な作品を提供していました。開館時間は9時～16時30分、休館日は毎週月曜日、祝日の翌日、年末年始、展示替え期間でした。入館料は高校生以上300円（20名以上の団体は200円）、中学生以下は無料でした。アクセスは長良川鉄道関市役所前駅から徒歩5分、東海北陸自動車道関インターチェンジから車で約10分と、比較的便利な立地でした。

岐阜現代美術館との関係：議論と共存

2006年9月、鍋屋バイテックは自社工場内に「岐阜現代美術館」を開館しました。これにより、関市立篠田桃紅美術空間が、実質的に鍋屋バイテックのコレクション展示室となっているとの指摘が関市議会でなされました。市が庁舎のフロアを提供し、経費まで負担する現状に疑問の声が上がり、閉館も検討されました。しかし、2007年の条例改正により、岐阜現代美術財団に管理運営を委託する指定管理者制度を導入することで、問題は収束しました。2005年度の有料入館者数は1,333人、一日平均3.65人という低迷した状況で、投入された税金約1億円から計算すると、一人当たりの税金負担は約5,400円にも上っていました。

閉館の背景：持続可能性の課題

関市立篠田桃紅美術空間の閉館は、地方都市における美術館運営の難しさを象徴する出来事と言えるでしょう。限られた予算と来場者数の中で、美術館の維持・運営を続けることは容易ではありませんでした。企業との連携というモデルは、一定の効果を発揮した一方で、その依存関係が閉館という結果につながった可能性も考えられます。地方都市の文化振興は、行政、企業、地域住民の継続的な協力と、持続可能な運営モデルの確立が不可欠であることを改めて示唆しています。

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