関文彦

関 文彦

関 文彦（せき ふみひこ、1942年4月17日 - ）は、日本の実業家であり、株式会社関家具の創業者、そして代表取締役社長を務めています。1968年、25歳という若さで単身家具卸事業を立ち上げ、以来半世紀以上にわたり事業を拡大し続け、2017年には連結売上高155億円を達成しました。創業から50年間無借金経営を続け、全国約3000の販売店に家具を供給する傍ら、直営店も36店舗展開するなど、国内有数の家具関連企業へと育て上げた立志伝中の人物です。トレードマークは、黒いシャツと黒いジャケットに赤いネクタイという個性的なスタイルで知られています。

人物と略歴

関文彦氏は、福岡県大川市の木工職人の家庭に生まれました。父親は高い技術を持ちながらも、薄利多売の経営姿勢だったため、経済的に豊かな暮らしではなかったといいます。幼い頃から家業を手伝い、小学生時代には父の弟子たちと共に材木を運び、中学生になる頃には鋸や鉋といった木工道具を自在に操るほどの腕前でした。学生時代は野球に打ち込み、地元の強豪校である大川高校から甲子園出場を目指しましたが、その夢は叶いませんでした。高校卒業後、久留米市にある親戚経営の寝具・家具店に住み込みで働き始め、家具部門を担当。盆や正月以外は休みなく働く日々を送ります。

しかし、次第に高学歴の顧客に対する自身の知識や教養不足にコンプレックスを感じるようになります。この状況を打開すべく一念発起し、生活費を極限まで切り詰めて貯蓄に励み、福岡大学商学部二部に入学しました。昼間は仕事、夜間は大学で簿記や会計を学び、そこで得た知識や人脈を通じて株式や不動産投資についても学びます。特に株式投資では大きな利益を得るなどして資金を蓄え、100坪の土地を手に入れました。後にこの土地の価格が高騰し、売却時には投資額を大幅に上回る資金を得ることができました。この自己資金とそれまでの貯蓄を元手に、大学卒業後の1968年、故郷である大川市内に土地を購入し、鉄骨平屋建ての事務所兼倉庫を建設。トラック1台で家具問屋としての第一歩を踏み出したのです。

製造業からスタートした父とは異なり、関氏は自ら作るよりも、他社が作った質の高い商品を仕入れて販売する問屋業の方が事業を大きく展開できると考え、この道を選びました。創業当初は、当時の家具業界で主流であった手形取引ではなく、独自の「現金取引」に徹しました。メーカーから商品を現金で仕入れ、販売店に即日現金で販売し、その日のうちにメーカーに支払うというサイクルを徹底。資金繰りが安定してくると、仕入れ時の前払いも可能となり、より有利な条件で商品を確保できるようになりました。

事業拡大のための戦略の一つとして、輸入家具のアウトレット品の再生販売があります。台湾やインドネシアからの輸入家具には輸送中に傷がついたものが含まれていましたが、通常は廃棄されていたこれらの商品を、腕の良い職人に依頼して修復し、仕入れ値程度で販売することで新たな販路を開拓しました。

転機と事業展開

事業を法人化したことを機に、関氏は単なる利益追求だけでなく、「何のために事業をやるのか」という問いに向き合い、共に働く社員の満足度向上や顧客への貢献、さらには地域社会への貢献といった事業目的を深く意識するようになります。創業期は婚礼ダンスなどの「箱物」家具が中心でしたが、1974年、1975年頃のアメリカ市場視察を通じて、欧米では収納家具が造り付けであること、家具店ではベッドやソファ、テーブル、椅子といった「脚物」が主流であることを知ります。日本の生活様式も洋風化が進むと予測し、自社の主力商品を「脚物」へと転換する戦略を実行しました。

卸売業で培った基盤に加え、現在は東京や大阪をはじめとする全国の主要都市にショールームやギャラリー、ショップといった小売店舗を36店舗展開しています。さらに、ニーズの高かった一枚板の天板製造を目指し、「関家具工房木馬」を設立。これにより、自社での製造（メーカー機能）、他社からの仕入れ・販売（卸売業機能）、そして顧客への直接販売（小売業機能）という、独自の垂直統合モデルを構築しました。取り扱い分野も家庭用家具に留まらず、オフィス向け、ホテル・レストランなどの業務用、福祉・医療施設向け、商業施設用什器など、多岐にわたる空間づくりに対応できる体制を築いています。

経営哲学

関氏は「経営の心得13か条」を示し、自ら率先して実践しています。社長として365日休むことなくハードワークを続ける姿勢はよく知られています。また、社員に対しては「仕事は楽しむものである」という考えを重視し、「やりたいことを任せる」「失敗しても責めない」「責任はすべて社長が取るから思い切り挑戦してほしい」という信条のもと、社員一人ひとりの主体性を尊重しています。現代社会のライフスタイルやニーズの変化、いわゆる「時流」を、社員との対話の中から積極的に学び取る姿勢も特徴的です。

受賞歴・メディア出演

その経営手腕と社会貢献が高く評価され、数々の賞を受賞しています。

• - 財団法人九州・山口地域経済貢献者顕彰財団 第38回「経営者賞」
• - 日刊工業新聞 第27回「地域社会貢献者賞」
• - 経済産業省 平成21年度「雇用促進優良企業1400社」に選出
• - 全国銘木連合会 全国銘木展示大会 第59回「銘木大賞」
• - 平成23年度 経営革新計画承認「福岡県知事賞」

また、テレビ東京の経済ドキュメンタリー番組「日経スペシャル カンブリア宮殿」にも出演し（2021年10月28日放送、「新ビジネスが続々！ 知られざる家具会社の秘策」）、そのユニークな経営戦略や人物像が紹介されました。

関文彦氏は、木工職人の子として生まれ、学歴コンプレックスを乗り越えながら、単身で立ち上げた事業を全国規模の企業へと成長させた稀有な実業家です。その飽くなき探求心と、社員を信じ任せる経営スタイルは、多くのビジネスパーソンにとって学ぶべき点が多いといえるでしょう。

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