関門港

関門港：統合と分断の歴史

関門港は、北九州市と下関市、そして両市を結ぶ関門航路を包含する広大な港湾地域です。一見、単一の港湾のように見えますが、その歴史を紐解くと、複数の港が複雑に絡み合い、統合と分断を繰り返してきたことが分かります。

明治時代からの発展と多様な港湾

関門港を構成する各港は、明治時代以降、それぞれ独自の特性と役割を持って発展しました。門司港は、横浜、神戸と並ぶ国際貿易港として栄え、小倉港は商業の中心地として、戸畑港、八幡港、若松港は八幡製鉄所や筑豊炭田といった産業を支える拠点として発展しました。下関港もまた、古くから重要な港湾として機能していました。これらの港は、地理的に連続した区域を形成しながらも、個別に管理運営されてきました。

一元管理への模索：寺島成信の提言と戦時体制下での統合

1925年、経済学者寺島成信は、行政区画を超えた関門港の一元管理の必要性を提言しました。ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社を参考に、行政の利害を超えた「ポート・オーソリティ」方式による運営を提案しました。この提言を受けて、1940年には戦時体制下、門司港、小倉港、下関港が統合され「関門港」として指定され、国が直接管理するようになりました。その後、戸畑港、八幡港、若松港も関門港に統合されましたが、国有施設が存在しなかったため、実質的には福岡県が管理することとなりました。

戦後の港湾法と「港務局」設立構想

戦後、1950年の港湾法施行により、港湾の管理は国から地方に移行しました。山口県、福岡県、北九州5市、下関市の関係自治体は、関門港全体を民間も参加する「ポート・オーソリティ」方式で管理する「港務局」設立を目指しました。当初は、門司港・小倉港・下関港と、洞海湾の3港（戸畑港、八幡港、若松港）を分けて管理する計画でしたが、協議の過程で様々な困難が生じました。

特に、門司港、小倉港、下関港の統合においては、委員数の配分をめぐって山口県と門司市の対立が激化し、1953年に小倉市が離脱、独自に小倉港務局を設置することとなりました。この対立は、当初の「両岸均等」の原則が、小倉市の参加によって崩れたことに起因していました。

一方、洞海湾の3港はスムーズに調整が進み、1955年には「洞海港務局」が設立され、民間委員も参加した一元管理体制が確立しました。

下関港と門司港の統合頓挫と4港体制

小倉市の離脱後、下関港と門司港は共同での港務局設立を目指しましたが、港務局の設置場所をめぐる福岡県と山口県の対立により、1954年に準備委員会は打ち切られました。結局、1960年には、下関港と門司港はそれぞれ別々の管理者と港湾区域を持つこととなり、関門航路は国が直轄管理することになりました。

北九州港の発足と港務局の消滅

1963年の北九州市発足に伴い、門司港、小倉港、洞海湾3港は1964年に北九州港に統合されました。港湾管理者は「北九州港管理組合」に移行しましたが、当初目指した「ポート・オーソリティ」型の港務局は消滅しました。「港務局」方式が全国的に普及しなかったのは、財務基盤の脆弱性、起債の制約、職員の身分保証の問題などが要因として挙げられています。

結論：関門港の複雑な歴史

関門港の歴史は、地理的条件、政治的思惑、経済的要因が複雑に絡み合った結果です。当初目指した一元管理は実現しませんでしたが、現在も北九州港と下関港は、関門海峡を挟んで、それぞれの役割を果たし続けています。この歴史は、港湾管理のあり方について多くの示唆を与えてくれます。

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