ポート・オーソリティ

ポート・オーソリティとは

ポート・オーソリティ（Port Authority）は、主に都市の港湾を管理・運営する公企業的な組織です。港湾委員会や港湾公社、港務局などとも訳されます。特にイギリスやアメリカといった英米圏や、その影響を受けた港湾都市で、港湾経営の中核を担っています。

歴史的背景

イギリス

産業革命以降、イギリスでは港湾施設の運営がドック会社や貿易商人などによって行われていましたが、利害関係の調整が難しく、港湾経営の一元化が求められるようになりました。1900年にはロンドン港の秩序と権威を確立するために「ロイヤル委員会」が発足。1908年にはロンドン港湾法が成立し、翌1909年にポート・オブ・ロンドン・オーソリティ（Port of London Authority）が設立されました。これがポート・オーソリティの初期の形です。

アメリカ

アメリカでは、ロンドン港のポート・オーソリティに触発され、またニューヨーク港とニュージャージー港が異なる州にまたがるという問題を解決するために、1917年に両州による港湾委員会が組織されました。そして1921年にはポート・オーソリティ・オブ・ニューヨーク・アンド・ニュージャージー（Port Authority of New York and New Jersey）が設立されました。

当時、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国では、強力な行政国家による港湾整備が進められており、イギリスの港湾が相対的に地位を低下させていたことも、イギリスが港湾経営の改革を迫られた要因の一つでした。

ポート・オーソリティの特徴

ポート・オーソリティは、国家から組織・職能・財政について法律上の規定を受けるものの、一般行政庁からは独立した法人格を有しています。特に英米では、西洋市民社会の伝統に基づいた港湾運営のための自治組織として機能しています。

欧米では、港湾経営組織として一般的であり、港湾だけでなく、空港、バスターミナル、通勤鉄道、バス停など、水上交通以外の交通機関や交通ターミナルの運営も行っています。ニューヨーク港のポート・オーソリティのように、世界貿易センタービルの運営など、公益企業として幅広い事業を展開している組織も存在します。

日本におけるポート・オーソリティ

日本においては、1950年に成立した港湾法に、占領軍の主導で欧米のポート・オーソリティの概念が導入され、「港務局」制度として法制化されました。しかし、財政的な制約から、ほとんどの港湾では都道府県や政令指定都市などの地方公共団体が港湾管理者となり、港務局制度を採用したのは、小倉港、洞海港、新居浜港の3港のみでした。

その後、小倉港と洞海港は門司港と統合され北九州港となり、現在では新居浜港務局が日本で唯一の港務局となっています。また、東京湾や大阪湾でもポート・オーソリティの設立が期待されましたが、地方公共団体の単独管理となり、横浜港では神奈川県、横浜市、川崎市の協議が不調に終わり、川崎市が川崎港として分立する事例も起こりました。

その後も、それぞれの港湾管理者の管理区域を超えて、広域的に一体となった機能を果たす動きはありました。1960年代には京浜外貿埠頭公団・阪神外貿埠頭公団が設立され、コンテナ・定期船専用埠頭の一元管理が実現しました。これらの公団は将来的なポート・オーソリティ設立に向けた先兵としての役割を担いましたが、1980年代の行財政改革で、東京・横浜・大阪・神戸の港単位で埠頭公社へと改組・分割されました。経済活動の規模が拡大し、港湾機能をより広域的に捉え、地域全体の視点から最も合理的な形で運営しようという広域港湾構想の実現は、遠のいたまま現在に至っています。

日本はイギリスと同様に島国であり、横浜、川崎、東京や、神戸、大阪のように、比較的狭い地域に多くの港湾都市が密集しています。そのため、より広域的な視点での港湾管理が求められていると言えるでしょう。

なお、一部事務組合が港湾管理者となっている国内6港（苫小牧港、石狩湾新港、名古屋港、四日市港、境港、那覇港）は、英語表記で「Port Authority」を使用していますが、これらは地方自治法で定める特別地方公共団体であり、本来のポート・オーソリティとは異なる組織です。

参考文献、資料

北見俊郎 著「港湾研究シリーズ⑨」、喜多村昌次郎、北見俊郎 編『港湾都市』成山堂書店、1993年。

関連項目

港湾
海運
港湾局
港湾産業
メガターミナルオペレーター
港湾運送業
ドックランズ
プール・オブ・ロンドン

外部リンク

The Port Authority of NY ＆ NJ

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