閼与の戦い

閼与の戦い：趙奢の知略が秦を打ち破った戦い

閼与の戦い（あつよのたたかい）は、中国戦国時代の紀元前269年に、強国・秦と趙の間で繰り広げられた重要な戦いです。この戦いは、趙の将軍・趙奢の卓越した戦略と勇気が、秦軍を打ち破る上で重要な役割を果たしました。

戦いの背景

紀元前269年、秦は隣国である韓を攻めようと、将軍・公孫胡昜に軍を率いさせ、閼与（現在の山西省晋中市和順県）に軍を配置しました。この動きに対し、韓は趙に救援を求めました。趙王は、重臣である廉頗や楽乗に韓を救援すべきか意見を求めましたが、両者とも「道が険しく困難である」と難色を示しました。そこで、王は趙奢を呼び出し、意見を求めました。

趙奢は、険しい地形を理由に消極的な意見を述べる重臣たちに対し、「たとえ道が険しくとも、それは二匹のネズミが穴の中で争うようなもの。将の勇猛さで勝敗が決まる」と主張し、救援の指揮官に志願しました。趙王は趙奢の勇気に感銘を受け、彼を救援軍の指揮官に任命しました。

戦いの経過

趙奢は、邯鄲から30里の地点に塁壁を築き、軍の進軍を一旦停止させました。一方、秦軍は武安の西に陣を構え、趙軍を待ち構えていました。この状況下で、趙軍の陣に秦の間者が侵入しましたが、趙奢は間者を丁重にもてなし、帰国させました。間者は秦軍の将軍に「趙軍は塁壁を築いて進軍を止めている」と報告しました。この報告を聞いた秦軍の将軍は、趙軍の慎重な動きに安心し、油断しました。

しかし、趙奢は間者を帰国させた後、軍勢を急行させ、閼与から50里離れた地点に新たな陣地を築きました。この報告を受けた秦軍は、慌てて全軍を趙軍に向けて進軍を開始しました。趙奢は、部下の許歴の意見を取り入れ、厚い陣形を敷き、1万の兵を北の山上に配置しました。秦軍は、趙軍より遅れて戦場に到着し、山を奪取しようと試みましたが、趙軍の堅固な守りに阻まれ、山を奪うことができませんでした。

趙奢は、秦軍が山を奪えなかったのを見計らい、待機させていた軍勢を繰り出し、秦軍を攻撃しました。この攻撃により、秦軍は大きな損害を被り、戦いは趙軍の勝利に終わりました。

戦いの影響

この閼与の戦いにおける勝利は、趙の勢力を大きく高めました。趙奢はその功績を認められ、趙王から馬服君の称号を賜り、許歴は国尉の称号を得ました。閼与の戦いは、趙奢の卓越した戦略と勇気、そして優れた部下たちの協力によって、強大な秦軍を打ち破った戦いとして、歴史に名を残しました。

この戦いの教訓は、単に力だけでなく、知略と勇気、そして状況判断の重要性を示しています。また、趙奢が間者を巧みに利用し、敵を欺いたことも、この戦いの勝利を決定づけた重要な要因の一つと言えるでしょう。


参考文献
* 史記〈上〉春秋戦国篇 (朝日選書): 田中 謙二, 一海 知義

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