闇に吠える街

ブルース・スプリングスティーン『闇に吠える街』とザ・プロミス：失われたセッションズ

『闇に吠える街』（原題：Darkness on the Edge of Town）は、ブルース・スプリングスティーンが1978年に発表した4枚目のスタジオ・アルバムであり、彼のキャリアにおける重要な作品の一つです。本稿では、アルバム自体に加え、2010年にリリースされたボックス・セット『闇に吠える街〜ザ・プロミス:ザ・ダークネス・オン・ジ・エッジ・オブ・タウン・ストーリー』についても詳しく解説します。

制作の背景

アルバムの制作は、法的な困難に直面しながら始まりました。1976年、スプリングスティーンは4作目のアルバムのレコーディングに取り掛かろうとしていましたが、当時のマネージャー、マイク・アペルが、プロデューサーとしてジョン・ランドーを迎えることに反対し訴訟を起こしました。これに対し、スプリングスティーンも反訴し、法廷闘争が繰り広げられました。この争いは1977年5月にようやく決着し、スプリングスティーンはマネジメントの自由を得て、レコーディングを再開することができました。

この時期、スプリングスティーンはパティ・スミス・グループに「ビコーズ・ザ・ナイト」を提供し、彼女のバージョンは1978年に全米13位のヒットとなりました。また、ロバート・ゴードンには「ファイア」を提供し、後にポインター・シスターズがカバーして全米2位の大ヒットを記録しています。これらの楽曲は当初、『闇に吠える街』には収録されませんでしたが、ライブで頻繁に演奏され、ライブ・アルバム『The "Live" 1975-1985』に収録されました。スタジオ録音版は、コンピレーション・アルバム『ザ・プロミス〜ザ・ロスト・セッションズ』（2010年）や、ボックス・セット『闇に吠える街〜ザ・プロミス:ザ・ダークネス・オン・ジ・エッジ・オブ・タウン・ストーリー』で初めて公式に発表されました。

アルバム発表に先駆け、1978年5月にはEストリート・バンドと共にアメリカ・ツアーを開始し、各地で熱狂的なパフォーマンスを繰り広げました。

反響と評価

『闇に吠える街』は、アメリカのBillboard 200で自身2度目のトップ5入りを果たし、プラチナ・ディスクに認定、1999年にはトリプル・プラチナに達しました。シングルカットされた「暗闇へ突走れ」はBillboard Hot 100で33位、「バッドランド」は42位を記録しました。

オランダでは、1978年のアルバム・チャートで最高39位でしたが、1985年に再浮上し、最高4位に達しました。日本では、オリコンLPチャートで初めてトップ50入りを果たし、スプリングスティーンのアルバムとして新たなファンを獲得しました。

ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500では、91位にランクインするなど、批評家からも高い評価を得ています。

現在でも、アルバム収録曲はコンサートで頻繁に演奏され、「バッドランド」「レーシング・イン・ザ・ストリート」「プロミスト・ランド」「闇に吠える街」などは、彼の代表的なライブ・ナンバーとして知られています。

闇に吠える街〜ザ・プロミス：ザ・ダークネス・オン・ジ・エッジ・オブ・タウン・ストーリー

2010年11月には、3枚組CDと3枚組DVDからなるボックス・セット『闇に吠える街〜ザ・プロミス:ザ・ダークネス・オン・ジ・エッジ・オブ・タウン・ストーリー』がリリースされました。CD1はアルバムのリマスター版、CD2とCD3には、『ザ・プロミス〜ザ・ロスト・セッションズ』と同内容の未発表音源が収録されています。

DVD1には、ドキュメンタリー映像『プロミス:メイキング・オブ "闇に吠える街"』が収録され、アルバム制作の舞台裏を垣間見ることができます。DVD2には、2009年にアズベリー・パークで行われたアルバム全曲再現ライブに加え、1976年から1978年のスタジオ・セッションやライブ映像が収録されています。DVD3には、1978年のヒューストン公演のライブ映像が収録されており、当時の熱狂的なパフォーマンスを追体験できます。

このボックス・セットは、アメリカで発売週に最も売れたアイテムとなり、Billboard 200で27位に達しました。

『闇に吠える街』は、スプリングスティーンの音楽的才能と、彼が抱える社会へのメッセージが込められた重要な作品です。ボックス・セットは、アルバムの世界観をさらに深く理解するための貴重な資料と言えるでしょう。

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