闘技者トマスの書

『闘技者トマスの書』は、グノーシス主義の文献群であるナグ・ハマディ写本に含まれる説教文書の一つです。この文書は、1945年にエジプトで発見されたことで広く知られるようになりました。文書の冒頭には、救い主が使徒トマスに語った隠された言葉がマタイによって書き記されたと述べられています。また、後書きには「トマスの書・闘技者記す・完全なる者たちへ」という記述があり、これが文書名の由来となっています。

この文書は、グノーシス主義的な思想を色濃く反映しているにもかかわらず、正統的なキリスト教会から異端として公式に排斥されなかった、数少ない文書の一つとして注目されています。その理由は、文書の内容が必ずしも既存の教義と完全に矛盾しているわけではなかったためだと考えられています。

『闘技者トマスの書』の成立年代は、二世紀後半から三世紀前半頃と推定されています。これは、著者とされる人物が、二世紀半ばに成立したと考えられる『トマスによる福音書』を知っていた可能性が指摘されているからです。このことから、この文書が『トマスによる福音書』の成立後、比較的早い時期に作成されたと考えられています。

文書の内容は、救済、知識、魂の解放など、グノーシス主義の中心的なテーマを取り扱っています。救い主とされる人物の言葉を通じて、知識（グノーシス）を得ることによって真の自己を認識し、この世の束縛から解放される道が説かれています。これらの教えは、当時のキリスト教の主流とは異なる視点を提供しており、グノーシス主義の多様性を理解する上で重要な資料となっています。

『闘技者トマスの書』は、グノーシス主義の思想を研究する上で、また、初期キリスト教の多様性を知る上で、非常に重要な文献です。この文書は、従来の教義にとらわれない、自由で探求的な精神を私たちに示唆しています。その内容は、現代においても、自己探求や精神的な成長を目指す人々にとって、貴重な示唆を与えてくれるでしょう。

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