阪急職業野球団応援歌

「阪急職業野球団応援歌」は、現在のプロ野球球団オリックス・バファローズの前身にあたる阪急軍（当時の名称は大阪阪急野球協会など）が、その誕生期に使用した記念すべき初代球団歌です。作詞は岩沢光城氏、作曲は古谷幸一氏が担当しました。

日本のプロ野球の歴史は、1920年（大正9年）に誕生した日本運動協会（通称：芝浦協会）から始まります。しかし、この試みは1923年（大正12年）の関東大震災により頓挫。活動停止に追い込まれた協会の運営を引き継ぐ形で、阪急東宝グループの創業者である小林一三氏は、関西の私鉄対抗リーグ構想を温めつつ、兵庫県宝塚市に本拠地を移した宝塚運動協会を発足させました。これもまた1929年（昭和4年）に解散を余儀なくされます。

その5年後の1934年（昭和9年）、読売新聞社が大日本東京野球倶楽部、後の巨人軍を結成したことが、日本のプロ野球を大きく動かすきっかけとなりました。関西では、小林氏率いる阪急電鉄にとって最大のライバルであり、「東洋一」と称された甲子園球場を擁する阪神電鉄が、これに呼応。1935年（昭和10年）末に大阪野球倶楽部、現在の阪神タイガースを密かに設立します。阪神側は、かつて宝塚協会を運営していた阪急がプロ野球参入を検討する可能性を予見し、水面下での準備を進めていたのです。阪神の球団設立が公になると、阪急側もすぐさま対抗。大阪阪急野球協会（阪急軍）を立ち上げました。こうして、阪急、阪神に加え、名古屋軍、名古屋金鯱軍、東京セネタース、大東京軍などが集まり、1936年（昭和11年）2月、計7チームで日本職業野球連盟が産声を上げました。

当時の日本において、職業野球は大学野球や中学野球に比べて人気が低く、一段下に見られる傾向がありました。そのため、現代のような多様なファンによる応援団組織はまだなく、社会人野球の応援スタイルを踏襲し、球団オーナー企業の社員らが動員されることが一般的でした。阪急軍も例外ではなく、1936年4月29日に開幕した第1回リーグ戦に先立ち、電鉄社員を中心に「阪急野球団後援会」を結成。ブラスバンドを伴った応援が展開されましたが、この時に初めて演奏されたのが、この「阪急職業野球団応援歌」です。作曲者の古谷幸一氏は宝塚音楽学校の教員でした。宝塚歌劇団の関係者が球団歌を手がけるこの伝統は、1988年に阪急が球団をオリックスに譲渡するまで長く続きました。

同年9月には、初の「阪急軍・タイガース定期野球戦」が甲子園と宝塚で開催され、両球団のライバル意識がスタンドでも爆発しました。阪神側も電鉄社員らで「大阪タイガース応援団」を結成しており、阪急後援会と壮絶な応援合戦を繰り広げました。この様子は、9月14日付の『関西中央新聞』に報じられています。記事によると、両スタンドからそれぞれ500人もの社員が動員され、「大阪タイガースの歌」と「阪急職業野球団応援歌」の大合唱が球場に響き渡っていたといいます。

職業野球は太平洋戦争による中断を経て、1946年（昭和21年）に再開されました。戦前に存在し、戦後も活動を再開した6球団（巨人、阪神、中日、松竹、阪急、南海）の中で、戦前からの球団歌をそのまま使い続けたのは阪神のみでした。1949年（昭和24年）末に発生したプロ野球の2リーグ分裂に伴い、パシフィック・リーグに所属することになった阪急軍は、新たな時代に向けて球団歌を一新することを決定。懸賞による公募を行い、2代目となる「阪急ブレーブスの歌」を制定しました。

「阪急職業野球団応援歌」は、短い期間の使用に終わりましたが、日本のプロ野球が組織化され、セ・パ両リーグへと発展していく黎明期において、特に阪神タイガースとの熾烈なライバル関係の中で誕生し、当時の企業による熱狂的な応援と共に球場を彩った、歴史的に非常に重要な一曲と言えるでしょう。

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